オープン ソース、オープンな標準にマイクロソフトはどう取り組んでいるか
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丸山 不二夫 氏 早稲田大学大学院 客員教授 日本アンドロイドの会 会長 |
ギアヌゴ・ラベリノ Sr. Director, Open Source Communities Interoprability Strategy |
オープン ソース コミュニティとの仕事は夢のよう
丸山 ラベリノ氏はマイクロソフトでオープン ソース担当だと聞きました。どのような経歴を経て、いまのポジションになったのでしょうか?
ラベリノ 私はこれまでずっとオープン ソースに関わってきました。Linux が公開された頃から関わってきたので、もう 20 年にもなります。
ビジネスの面ではオープン ソースを重視する企業で働いたり、ヨーロッパで会社を設立したりもしてきましたし、私が心から大事だと思っているオープン ソースのコミュニティにもずっと関わってきています。アパッチ ソフトウェア財団のバイスプレジデントでもあります。私は、いまの自分があるのはオープン ソースのおかげだと思って、とても感謝しています。
そうした経歴の自分に、ある日マイクロソフトから電話がかかってきました。オープン ソース コミュニティ担当のシニア ディレクターにならないか、という話でした。「それってどういう意味?」と聞き返すと、マイクロソフトはオープン ソース コミュニティのことがよく分かっている人を求めていて、マイクロソフトがオープン ソース コミュニティに接触したり協業できるようにしたりしていきたい、ということでした。
それで 2010 年 10 月にマイクロソフトに入社しました。オープン ソース コミュニティと仕事をするというのは、私にとって夢の仕事みたいなものですからね。とても楽しんでいます。
丸山 僕は 30 年くらい前から UNIX や C やネットワークに関わって、それを大学教育に導入することをやってきました。15 年前に Java が登場してからは、それを日本で紹介するというコミュニティを作って活動もしてきました。
僕も基本はオープン ソースなのですが、実はそれほどこだわりはなくて、いい技術で、しかも社会にいい影響を与えるものであれば歓迎したいというスタンスです。
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マイクロソフトにはポテンシャルがある
丸山 マイクロソフトは過去にオープン ソースとは難しい関係にあったと思っています。ラベリノさんがそのマイクロソフトに転職するという決断について、もう少し話してもらえませんか?
ラベリノ もちろん簡単な決断ではありませんでした。日本でこういうのが普通かどうかは分からないのですが、レドモンドへ何度も面接に行き、インタビューを受ける際に「できるだけたくさんの人に会いたい」と依頼しました。オープン ソースの世界の仲間にも「マイクロソフトに転職するというのは正しいことなのかな」と意見を聞いたりもしました。
プライベートな面でも、新しい土地に引っ越して新しい仕事を始めるというのはそんなに簡単に決められることでもありませんでしたし。
決断したのは、インタビューでいい感触を得たことと、仲間が「この仕事は受けた方がいい、マイクロソフトには大きなポテンシャルもあるんだし」と言ってくれたことです。
入社してマネージャが私に与えた最初の仕事は、マイクロソフト社内のオープン ソースに興味がある人たちのところに行って話をしてこい、ということでした。あれからもう 1 年以上たちますが、いったい社内にどれだけそういう人がいるのか、まだその仕事も終わっていません (笑)。
マイクロソフト社内にもいたるところでオープン ソースと関わりがあり、私はいつもそういう人たちとの対話を続けています。
そしてもうひとつ、私の仕事の一部になっているのが、世界中を旅してオープン ソースの開発者たちに接触し、マイクロソフトが変わりつつあること、なぜそうしようとしているかを伝えることです。
丸山 マイクロソフトが変化をし続けていてポテンシャルがある、という点はまったく同感です。でも日本ではやはりマイクロソフトはプロプライエタリな会社で、オープン ソースの人たちからは「どうなんだろう?」と思われているところはあります。僕はそれは必ずしも正しくないのではないか、とは思っていますが。
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オープン ソースの支援には合理性がある
ラベリノ マイクロソフトが変わった理由にはビジネスの合理性もあります。どんな企業も「オープン ソースはクールだからね」なんていう理由だけで変わることはありません (笑)。
特に企業としては、株主をはじめとする他人のお金を使わせていただいているのですから、ビジネスとして理由があり、筋が通ってなくてはいけません。それは、ときには私たちのソフトウェアをもっと価値あるものにすることであり、ときにはまだマイクロソフトと関わりのない開発者コミュニティにさらに近づくためでもあります。新しい人たちにもマイクロソフトに関わってほしいですからね。
私はいつも、マイクロソフトという会社はプラットフォーム企業だと思っています。Windows が売れているのはマインスイーパが楽しいからじゃなくて (笑)、400 万種類もの Windows 対応アプリケーションがあるからです。その 400 万のうち 35 万種類がオープン ソースですから、マイクロソフトがオープン ソースを無視するわけにいかないことが分かるでしょう。最近の調査では、オープン ソースのプロジェクトのトップ 25 のうち 23 が Windows で動作しているとのことです。
マイクロソフトはオープン ソースと競合している、と言われることがありますが、それは誤解です。例えば、私たちは Linux カーネルにどのような貢献ができるのか、よく話しています。オープン ソースを用いたベンダーと競合することはあっても、オープン ソースそのものとマイクロソフトは協業関係にありこそすれ、競合すると考えるのはそもそも間違っています。
ここ数カ月で私たちのチームが取り組んでいる主なオープン ソース プロジェクトを少しだけ紹介すると、Node.js コミュニティと協力して、Windows 上で Node.js が以前より格段によい性能で動作するようになりました。Hadoop と SQL Server の協調も発表しています。これは SQL Server チームがほとんど担当しているのですが。
モバイルに関しては jQuery Mobile がとてもよい協業の例で、Windows Phone での対応が向上して性能も上がっているし、最近は PhoneGap にも関わっています。このほかにもたくさんのオープン ソース プロジェクトに私たちは関わったり支援したりしています。
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オープン性、相互運用性
丸山 IT のこれからを考えたときに、オープン ソースのムーブメントは非常に大事だとマイクロソフトも考えていますよね。マイクロソフトはこれから、オープン ソースに対してどういうスタンスをとっていくことになるのでしょうか?
ラベリノ 私たちはこれからさらにオープンに進んでいくことになります。これは会社としても強調していることです。インターオペラビリティ、相互運用性というのが非常に求められるようになってきていて、それが私のようなオープン ソースに近い人間をチームの一員として戦略的に組み込んでいく理由にもなっています。
マイクロソフトはこの相互運用性のための標準に多くの人員を投入して活動しています。一例を挙げれば、私の同僚の 1 人は W3C で HTML5 ワーキング グループの共同議長をして仕様策定を推進しています。こうしたオープンでパブリックな活動はこれからさらにたくさん目にすることになるはずです。
丸山 標準化の世界とオープン ソース、そしてオープン API などの関係をどういう風にお考えですか。
ラベリノ いいご質問ですね。例えばクラウドにおけるオープン性を考えると、単にそのクラウドのコードを開示しているだけでは十分ではありませんよね。クラウドでアプリケーションを運用することを考えると、データをそこにロックインされたくないからデータ用の API やデータ フォーマットの標準も欲しい。
だからオープン性にはさまざまな要素があって、オープンな API、オープン プロトコル、オープンな標準、そしてオープン ソース。この 4 つが柱です。けれどもどんなときにもこのすべてが必要というわけではありません。顧客がロックインされないためになにが必要か、というのはそれぞれ役割が違っていると考えています。
丸山 僕の友達が面白いロボットを作って、亀のロボットなんですけど、人間の顔を識別してその後をずっと追っかけていくんです。それは Android で動いてるんですが、目は Kinect なんですよ。で、その写真を iPad に送る機能もある。
オープンな API やプロトコルって本当にそういう面白いものを作れる。素晴らしいなと思います。別にソース コードが全部手に入らなくても、オープンな API やプロトコルでそんな面白いものができる。世の中がオープンになってきて、これは非常にいい変化だと思ってます。
逆に技術を広げるためには少なくともオープンな API を定義すること、できればそれはオープンな標準があるといいですね。オープン ソースな人たちはそういう貢献していく力になっていると思います。と同時に企業の力も大きいですね、そういう点でのマイクロソフトの動向にも期待をしています。
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アピールより対話がしたい
丸山 とはいえ、やはりオープン ソースの世界では IBM や VMware やグーグルなどによる「私たちはオープン ソースの味方です」というアピールの方が目立っています。もっとマイクロソフトの存在感をオープン ソースの世界でも示すべきではありませんか?
ラベリノ たしかにもっと「マイクロソフトはオープン ソースを支援しているんです」ということを声に出してもいいのかもしれません。でも私はキャンペーンを仕掛けるよりもコミュニティとテクノロジについて対話する方を好んでいます。
私が相手にしているのは開発者のコミュニティであって、ウォール ストリート ジャーナルではありませんしね。
丸山 僕はオラクルに買収されたサン・マイクロシステムズという会社がとても好きで、なぜあの会社がだめになってしまったのか、ときどき考えるんです。それでいくつか思い当たることがあるのですが、サンは Java のオープン化って最後になるまでできなかったんですね。それからグーグルもオープンと言いつつ、キー テクノロジは絶対に外には出さないですね。そういう意味で実はプロプライエタリに近づいていると思うんです。
だけど一般的にはプロプライエタリな技術の筆頭だと思われているのはマイクロソフトだったりする。現実はどんどん変わっているんだってことを、もう少し印象的に示した方がいいと思ってるんですよね。
ラベリノ 100% 同意しますね。私たちはだれもが商用ソフトウェアとオープン ソース ソフトウェアが共存する世界にいることを理解することになるでしょう。アパッチ ソフトウェア財団もそうした考えを持っている点は素晴らしいと思っていて、それがうまく行くようにライセンスを作成したりもしています。私たちがいま作ろうとしているのはそうした世界なんです。
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若い人のエネルギーを支援したい
丸山 少し話は変わりますが、僕が注目したのはあなたのような人がマイクロソフトに入社したように、例えばいま同席している日本マイクロソフトの彼は元オラクル出身だったり、もう 1 人は東芝出身で Java の人だったりする。IT 業界での人の異動は潜在的にオープンなマインドを広げる効果をすごく持っていると思っていて、何年かたつとだんだん共通の認識に落ち着いてくるんじゃないかなという期待もあります。
それから日本でもコミュニティがたくさんできてきて、それがいま自分が所属している会社から自由になれるという大事な動機になっています。そういう変化も日本の若い人に浸透してきていて、面白いことだと思っています。
ラベリノ 僕が好きなことのひとつに、大学に行って学生と話すことがあります。彼らに、オープン ソースの素晴らしさについて話すのです。例えば私の場合、就職のために履歴書を企業に送ったことは人生で一度しかありませんでした。それ以外はいつも企業の方から声をかけてきました。
つまりオープン ソースという場に参加することが、プロフェッショナルなアピールを自分に与えてくれるし、企業が欲しくなるような人材になることにつながるのです。キー テクノロジに貢献しているのですからね。企業が人材を最初に探すのは、そういう人のリストからなんです。
それに、現在ほど起業に適した時期はないと思っています。アイデアと数百ドルあればビジネスが始められる。その多くは失敗するかもしれませんが、いくつかは世界を変えるかもしれません。それをベンチャー キャピタルのようなよく分からない仕掛けなしにできる、そういう時代にみんなは生きているんだと、そう学生に話しています。
丸山 残念ながら日本ではなかなか若い人がベンチャーを立ち上げられていない。そういう点で遅れてるんですよね。とても残念ですが、ただ若い人の中にはアメリカに出て行こうという機運もあって、やっぱり日本で頑張らないでアメリカに行っちゃうんだなと。
ラベリノ 私が生まれたのはイタリアの北にある海沿いの小さな街で、そこからミラノに引っ越して世の中がどう動いているのか分かってきました。その後、ロンドンでオープン ソースの会社を設立しましたが、ロンドンではまた違ったビジネス環境がありました。
ある国でビジネスを実現する方法というのはそれぞれ違っていて、それは一晩で変わるものではなく、変わるとしても何年もかかるでしょう。でも、いつだって巨象の足下で気づかれずに動き回るネズミになることはできますし、そこから大きな変化を起こすことだってできます。そういうことが日本でも起きるのではないでしょうか。
例えば Ruby は日本で生まれましたよね。どの国にだって可能性はあります。
丸山 日本もそういう意味ではポテンシャルはありますね。ソフトウェア開発、若い人のエネルギー、それはもっと支援していきたいなと思っています。
ラベリノ この部屋にいる 30 歳以上の私たちは、20 代の人たちにそういうポテンシャルを気づかせてあげなくてはなりませんね。私もできることがあればお手伝いしたいと思います。
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