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Cloud First時代のITアーキテクト視点(2)~ワークスタイル・ライフスタイルの変化に対応するアプリケーションの革新

クラウドを中心としたITの変革期を迎えている現在、ITアーキテクトの役割や考え方も変化が求められています。本ブログシリーズではいくつかのトピックを題材にITアーキテクトが持つべき視点について議論してゆきたいと思います。
第2回目となる今回はCloud OSの能力を引き出すアプリケーションの革新について取り上げます。
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前回はCloud OSによって、同じアプリケーションがオンプレミスでもクラウドでも動作するようになる、という話をしました。では、今日なぜそのようなアプリケーションが必要とされているのでしょうか?そしてどのような価値をもたらすのでしょうか?

従来の業務アプリケーションは、財務会計、生産管理、顧客管理、人事給与、など定型的な業務プロセスを正しい順番に実行することでデータが一貫されていることを重視しています。これらのアプリケーションは多くの企業で基幹業務・バックオフィスシステムの一部を構成し、それがゆえに10年以上のライフサイクルを持つものも珍しくありません。

これに対し、現在はより直接的に業務を支援し、顧客やパートナーのビジネススピードや消費者のライフスタイルに合わせたソリューションを提供することがITに求められています。キャズム理論で有名なジェフリー・ムーアは前者を「Systems of Record」、後者を「Systems of Engagement」と名付けましたが、今日のアプリケーションにはまさにユーザーとのエンゲージメントを高めるための機能や仕掛けなどが求められていると言えるでしょう。マイクロソフトではこのようなアプリケーションのことを「モダンアプリケーション」と呼んでいます。

しかしながら、従来型の業務アプリケーションは役割を終えて、全てがモダンアプリケーションにシフトしてゆく、ということではありません。むしろモダンアプリケーションは、従来型の業務アプリケーションの能力を包含し拡張され、より多くのユーザーにリーチすることでビジネスを広げるという新しい価値を提供するのです。

また、モダンアプリケーションがクラウドで動作するのは、社内ユーザーよりもはるかに多くの社外の顧客やパートナー、消費者がアプリケーションを利用するからであり、かつこれらのユーザーには季節による変動や市場の変化への迅速な対応が求められるからです。

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図1: モダンアプリケーションと従来型の業務アプリケーションとの関係

ではモダンアプリケーションはどのようなビジネス機会をもたらすのでしょうか?以下3点で説明します。

1. 顧客エクスペリエンスの向上

モダンアプリケーションでは、利用シーン(オフィス内、移動中、家庭内、など)によって異なるデバイスを使っても、同じシナリオに沿ってアプリケーションやデータを利用できます。また、タッチやジェスチャー、音声認識などのNUI(Natural User Interface)技術と高DPI・高速なグラフィック能力・高解像度オーディオなどの能力を持つデバイスとの組み合わせが高い没入感を提供します。

これらが顧客エクスペリエンスを向上させ、結果的に顧客のロイヤリティを高めることにつながります。

例えば、英国の保険会社であるAvivaは、モバイルアプリを自動車のドライバー向けに配布し、運転中の挙動データを収集します。それらのデータはオンプレミス環境の見積システムと連携し、個人別に保険の見積額を算出するためのスコアを提示します。また、ドライバーはこのスコアをソーシャルメディアで他のドライバーと共有し競うことで、ますます安全運転を心掛け保険料を低く抑えることができます。

詳細は”UK Insurance Firm Uses Mobile App and Cloud Platform to Track Driving Behavior”で参照することができます。

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図2:Aviva のモバイルアプリとの連携による保険料見積システム

2. 新しい市場への進出を含む顧客リーチの拡大

モダンアプリケーションがクラウドに展開されるということは、世界中の顧客とつながる機会が得られるということです。しいては現在のビジネスに新しい機会をもたらしたり、新しい市場への進出をサポートすることになります。また、要求に応じて柔軟にスケールできるので、システムリソースの制限によりビジネス機会を逸することを気にする必要がありません。

例えば、英国の航空会社であるeasyJetはヨーロッパを代表する格安航空会社として知られていますが、乗客自ら座席予約ができるシステムについて天候を始めとした状況の変化に迅速に対応でき、かつ大きな投資をせずに済むソリューションを探した結果、座席予約システムをクラウドに拡張し、オンプレミス環境にある発券システムとのハイブリッド構成を採用しました。これによりフライトの検索、座席の選択、そしてチケットの購入という一連の予約プロセスがシームレスかつスケーラブルにつながり、より多くの顧客に満足してもらえるようになりました。

詳細は”Leading European Airline Improves Service and Scalability with Hybrid Cloud Solution”で参照することができます。

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図3:EasyJetの座席予約システム

3. ビジネスパフォーマンスの向上

インメモリDB機能を導入することで従来よりもアプリケーションの性能を大きく向上させることが可能になります。また、前回説明したようにビッグデータと呼ばれる急速に増大するデータ、とりわけ大量の非構造化データや複雑なデータを収集し、新しい分析ツールで自ら顧客や市場のトレンドを理解し迅速に変化に対応できるようになります。更に今後は機械学習による予測分析によって、ビジネスの変化を先んじて捉えてほぼリアルタイムに顧客の要求に応えることも可能になるでしょう。

例えば、ジブラルタルに本社があるオンラインゲームの最大手であるbwin.partyでは、毎日100万人以上がスポーツやカジノゲーム、ポーカーなどに賭けています。2010年の合併でシステムを統合しましたが、以来それぞれの顧客からのアクセスによる深刻な性能問題に悩まされました。この課題に対しbwin.partyはSQL Server 2014のインメモリOLTP機能を採用することで、15,000リクエスト/秒から250,000リクエスト/秒という驚異的な性能を得て、コストを削減しながら売上を拡大することができました。

詳細は”Gaming Site Can Scale to 250,000 Requests Per Second and Improve Player Experience”で参照することができます。

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図4:bwin.partyサイトの性能のbefore/after

Cloud OSの能力を引き出して大きなビジネス価値を生み出す、そのためにはアプリケーションがいかに多くの顧客やパートナー、消費者を惹きつけ、満足度を高めるかが重要です。3社の事例を見てもわかるようにマイクロソフトはモダンアプリケーションを開発するのにまったく異なる技術スキルを要求してはいません。始めは小さくともインパクトのあるユーザー体験シナリオを考えて、実践してみてください。

次回はモダンアプリケーションの典型的なアーキテクチャと技術の適用例について議論します。