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ちょっとひと言

火星と金星

David Platt

David Platt私の顧客の 1 人が、奥さんの新しいネットブックを買うために出掛けたときの彼女の行動について頭を悩ませていました。彼は、奥さんにこう言いました。「ほら、見てごらんよ。デュアル コア プロセッサだよ。こんな小さな箱にどうやって入れたんだろうね。ヒート シンクもすごいな」。

これに彼女は、「ええ、それはすごいわね。でも、このネットブックで Facebook は使えるかしら。私の目的は Facebook を使うことなのよ」と返したのです。

彼は私に、「私は、ディスクとメモリに関するすべてを教えて、この性能でこの値段は安いということを伝えたのですが、妻は Facebook が使えるかどうかだけ聞いてくるんです。こんな大事なことにどうして関心を払わないのでしょうか」と話していました。

この夫婦は結婚してあまり日が経っていないのでしょう。

この顧客が語っていることは、ありふれた、ほぼ典型的な見解の相違です。市場調査のスペシャリストである Paco Underhill が、彼の書籍『なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学』(早川書房、2009 年) でこのことについて解説しています。「男性が好むのは、テクノロジそのもの、目を見張るようなすばらしい要素、そして馬力です。...(男性は) ハード ドライブのサイズやモデムの速度を比較します。このようなものに、心ひかれるのです」。これに対して、女性は「ハイテクの世界に対するアプローチがまったく異なっています。テクノロジを電化製品と見なし、その実用性を判断するために、不可解でわけのわからないものはすべて、それが最もすばらしい装置であっても、はぎ取ってしまいます。女性はテクノロジを見て、その目的と理由を判断し、それが自分に何をしてくれるのかを考えます。そしてテクノロジには、自分たちの生活をより便利で効率的にしてくれることを常に期待します。女性は、テクノロジによって目的が果たされることを求めるのです」。先ほど紹介した夫は、"手段" である、ハードウェアに取り付かれていました。妻は、"希望する結果" である、Facebook にこだわっていました。

開発者のほとんどは男性です。女性の割合は、一時は 25% まで上がりましたが、現在米国では 10% まで落ち込み、ヨーロッパではそれを下回ります。地球がまだ氷河期を脱しておらず、生き残った数頭の恐竜が仲間はどこに行ってしまったのかと思いながらふらふら歩いていた時代にさかのぼると、ユーザーは男性しかいませんでした。時代は変わり、現在ユーザーの半数は女性です。つまり、彼女たちの思考プロセスは、おそらく皆さんのものより、先ほどの顧客の奥さんに近いということです。

また、女性の割合が半分以上であることもしばしばです。たとえば、看護師は nursingadvocacy.org/faq/rn_facts.html (英語) によると 94% が女性で、また、bnet.com の記事 (英語) によると小学校教師の 85% は女性です。このように、ユーザーが男性よりも女性の方が多いことは少なくありません。最近、金融業界に勤めている顧客の勤務先で顧客サービス部門を通る機会があり、従業員を数えてみたところ全員女性で、ほとんどの人が 40 代~ 50 代でした。彼女たちはじきに、20 代の男性が開発したソフトウェアを使用することになります。私は少なくとも、その開発に携わる男性たちに、男女の違いについて考えさせました。

どうすれば女性のユーザーを喜ばせることができるでしょう。私にそれがはっきりとわかっていれば、1 ワード単位に支払われるわずかな収入を求めてこのコラムを急いで書き上げることもなく、退職して島を買い、そこで過ごしていることでしょう。私は以前、携帯電話で位置と方角が自動認識されるという自分のアイデアがどれだけすばらしいものか、母を納得させようとしたことがあります (これが当たり前になる前の 2004 年のことです)。彼女は興味を示しませんでした。「自分が今どこにいるかなんて、そんなに苦労しなくてもわかるよ。もしわからなかったら、だれかに聞くさ。あんたはそういう携帯電話がかっこいいって思っているから、私に同意してほしいんだろうけど、あんまり興味ないね。ごめんね」。ハリー マッドに「ミスター スポック、あんたはすばらしい科学士官だ。だけど、母親に間違った特許を売ることはできないよ」と言われたときの、銀河一のコンピューターおたくの気持ちがわかりました。

優れたソフトウェアを開発しようとするなら、染色体 X と染色体 Y の違いについて考慮する必要があります。これは、思うより難しいことです。次におおまかに設計するときは、そのソフトウェアで何をするか母親にたずねてみてください。そして、彼女の発言に耳を傾けてください。

読者からのお便りコーナー: 読者の Barclay さんが、5 月号のコラムの「あなたの母親ならば、愛するあなたが作成したプログラムだからという理由で、プログラムそのものにも関心を寄せるかもしれません」という部分への返信で、B. B. King の古典ブルース、「Nobody Loves Me But My Mother, And She Could Be Jivin' Too」(私を愛してくれるのは母だけで、彼女もスイング音楽に合わせて踊ってくれる) を紹介してくれました。youtube.com/watch?v=OIW4ARVbhrw など、一般的なインターネットのサイトで聞くことができます。

David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。