次の方法で共有


ちょっとひと言

言い逃れ

David Platt

David Platt先月、私の使っている電子メール サービスが 1 日中停止したことがありました。サービスが復旧したときの、管理者による謝罪はこうでした。「電子メール接続に関して問題 (issue) が発生しました」。ちょっと待ってください、管理者さん。私に起こったことは「問題 (issue)」ではありません。私に起こったことはは、あなたが管理しているサーバーがダウンしたことによって、電子メールが使えなくなったことです。そして、時間の浪費、プロジェクトの遅延、収入の損失も生じました。約束されているはずの信頼性が得られなかったことで、あなたの会社への怒りも生まれました。それに加え、言い逃れの中でも一番ひどい言葉である「問題 (issue)」を使って過ちを軽視しようとしている点に対する、さらに激しい憤りもです。

「問題 (issue)」なんて言葉、言わせないでください。「水害の被害者への食料と毛布の支給 (issue)」など、配給の意味で使われるのならかまいません。そして、「私の子ども (issue) は、何よりも大切な 2 人の娘だ」など、子どもについて使われる場合や、まさにこの記事が掲載されている「MSDN Magazine の 9 月号 (issue)」など、雑誌の発行月を表わす場合もよいでしょう。ですが、「私たちが大失敗してしまったせいで、電子メールが使えなくなっていますよね。これが実際自分たちに起こったらかなり嫌なこともわかります。なので、本当に申し訳ありません。おわびに、1 か月間無料でサービスを提供します。あんまり文句がひどい方には 2 か月分無料にいたします」と言うよりは、「問題 (issue)」という言葉を使って「ソフトウェアの不具合」を表わした方が、損害を受けたユーザーの怒りも抑えられるだろうと期待する、ずるい人間は軽べつします。

謝罪の言葉を書いた人は、「問題 (issue)」を 4 段落で 5 回も使っています。その中には、こんな印象的なくだりもありました。「構成に関する問題 (issue) が解決し、すべてのサーバーがオンラインになったとき、依然として問題 (issue) が解決していないユーザーもいることがわかりました。...」。だれか、この人を楽にしてあげてくれませんか。

言い逃れは無害ではなく、解決されるべきことを隠してしまいます。たとえば、こう言ってみましょう。Johnny には「飲酒に関する問題 (issue)」があります。いいえ、違います。Johnny は「飲んだくれ」です。アルコール依存症だった人々が口を揃えて言うように、回復に向けての最初のステップにおける最初の言葉は「認めます」です。Johnny は、言い逃れの後ろに隠れるのをやめるまで、つまり、人前で「私の名前は Johnny で、アルコール依存症ですが、もう飲んだくれにはなりたくありません」と言えるようになるまで回復しません。彼の最愛の人々は、Johnny が自殺するか、だれかを殺してしまう前に、そうすることを期待しています。「問題 (issue)」を使っても、それが実現される日が先延ばしになるだけです。

開発者は言い逃れなどしませんし、言い逃れを聞くことも嫌いです。私たちエンジニアの仕事は、物事を解決することです。そのためには、その存在を認識し、正しい名前で呼ばなくてはなりません。賃上げを要求しながら上司の言葉を盲目的に信じようとしている開発者は簡単にわかります。訓練所でロボトミー手術を受け、包帯を巻いて帰ってきた彼は、バグを「問題 (issue)」と見なすようになります。それから、まるでゾンビのように、あなたの脳みそを食べて同化させようとします。「Bob、金曜日までに問題 (issue) のリストを作ってくれるかな」。

私は何年か前の Tech•Ed で、こう説きました。「これは問題 (issue) ではなく、バグです。"バグ" と、大きな声で言ってみましょう。Bad (悪い) の B、Ugly (見苦しい) の U、Gol-dangit (いまいましい) の G です。これが、バグ (bug) です」。私はスタンディング オベーションを受けました。

支給 (issue) したり、何月号 (issue) かの雑誌を読んだり、私のコラムの内容に反論 (issue) したりするのなら、かまいません。ですが、「問題 (issue)」を使って「ソフトウェアの不具合」を表わすのはやめましょう。開発者の側が、ユーザーの懸案事項を共有していないうえにあまり気にしていないこと、そして自分のたわ言を信じるくらいにユーザーが愚かであると考えていることが明るみに出ます。これは、給料を払い、子どもにパンを食べさせ、そして住む場所を与えている人々に対して、露骨に敬意を欠いた姿勢です。このことは、ただの論点としての問題 (issue) ではなく、考慮すべき深刻な問題 (problem) だと思います。

読者の皆さんにお願いがあります。お気に入りの言い逃れの例がありましたら、rollthunder.com (英語) までお送りください。最も優れたものを、このコラムでいずれ紹介します。

David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。