ちょっとひと言
Windows XP: 老兵は消え去るのみ
このコラムを執筆しているのは、マイクロソフトによる Windows XP のサポートが正式に終了した翌週です。世界中のすべてのコンピューターのうち約 28% ではまだ Windows XP が実行されています。私の住むマサチューセッツ州の町は、IT の技術革新にとりわけ反対している地域ではありませんが、公立図書館、子供たちが通う学校、銀行などで Windows XP が使用されています。英国政府やオランダ政府でも使用されています。米国国税庁 (IRS) でも Windows XP が稼働中です。Windows XP を葬り去ることにマイクロソフトは大きな努力を払っており、多くの企業も望んでいることですが、成功できていません。
私は 2001 年に Windows XP がリリースされたときのことを覚えています。開発者は、Windows の消費者向けバージョンと業務向けバージョンがついに一体化したことに歓喜していました。アプリケーションを開発する際に Windows 95/98 向けと Windows NT 向けの 2 バージョンを用意しなくてもよくなったのです。生活は向上していきました。
これは、この業界ではかなり昔の出来事です。今では 14 歳の長女が、当時は歩き方をマスターしたばかりで、気の毒な飼い猫を家中で追いかけ回すようになったころでした (「だめだよ、Annabelle。Simba の尻尾は取っ手じゃない」)。PC に明白なライバルはなく、スマートフォンもタブレットは存在しませんでした。モバイル接続と言えばホテルのロビーで Wi-Fi を使うことでした。Amazon は成長を始めたばかりで、ソーシャル メディアとはオンライン掲示板でした。世界は今ほど多くの悪意や危険に満ちてはいませんでした。
マイクロソフトは 2007 年から Windows XP から Windows Vista への置き換えを図りましたが、新しい Aero UI は多くのユーザーをうんざりさせたうえ、Vista を実行するにはハードウェアの交換も必要だったことから、置き換えは進みませんでした。大不況も Vista に有利には働きませんでした。ユーザー アカウント制御 (UAC) のプロンプトは評判が悪く、その状況は今も変わっていません (宇宙史上、1 回でも UAC で [いいえ] をクリックしたユーザーはいるのでしょうか。マイクロソフトには UAC によって防止された悪意のあるプログラムの数と、ユーザーの時間に関するコストを比較した統計を発表してもらいたいものです。セキュリティとコストの関係については、2011 年 7 月のコラム「セキュリティが意味をなさないとき」(msdn.microsoft.com/magazine/hh288087、英語) で説明しています)。
古い Windows XP のハードウェアがついに壊れれば、当然ながら所有者は現在のニーズを再検討します。2001 年の時点では、現実的な選択肢は完全な PC だけでした。しかし現在では、書斎でカタログを閲覧するには 199 ドルの Chromebook で十分です。浮いたお金を使って Kindle の書籍を追加でレンタルできます。
マイクロソフトは、冒頭に述べたような高額な費用を支払う大規模顧客以外には、XP 用セキュリティ更新プログラムを今後はリリースしないとしています。次に大きなセキュリティ侵害が発生したときに、この計画をどのように維持していくのか気になります。マイクロソフトが取る対応の 1 つとしては、更新プログラムを開発しないことが考えられます。"申し訳ございませんが、この問題に対する修正プログラムは作成しません。時代遅れの PC にも修正プログラムを作成しません。割引クーポンを差し上げますので、アップグレードしてください"。もう 1 つのまったく異なる対応は、次の Heartbleed 級ぜい弱性が愛用者を襲ったときに、更新プログラムを開発しても提供を見合わせることです。"はい、その問題は修正しましたが、修正プログラムの提供先は税務署のみで、お客様には提供いたしません"。
ときには、サードパーティ製の修正プログラムを当ててどうにか運用している XP に出会うことがあるでしょう。空港に古い DC-3 旅客機が駐機していたときのように、驚きのあまり一瞬言葉を失うかもしれません (Buffalo Airways ではカナダ北部のイエローナイフ - ヘイリバー間の定期便で DC-3 の運用を続けています。死ぬまでに乗ってみたくはありませんか)。熱力学第 2 法則によれば、目にする XP システムの数は毎年少なくなります。
XP の退場にあたり、かつては広く普及し現在では消え行くテクノロジを描写する言葉として、ダグラス マッカーサー元帥が 1951 年に行った連邦議会での退任演説の最後の言葉を贈りましょう。
「兵営で最も人気があった歌のリフレインを今でも覚えています。その歌は、"老兵は死なず、ただ消え去るのみ" と誇り高く歌い上げていました。そしてこの歌の老兵のように、私も今、軍人生活を閉じ、消え去ります。神が光で照らしてくれた任務を果たそうとした 1 人の老兵として。さようなら」。
David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。