LINQ to DataSet の概要

[アーティクル]
04/19/2011

DataSet は、ADO.NET のコンポーネントの中でも非常に使用頻度の高いコンポーネントの 1 つです。ADO.NET の基礎を成す非接続型プログラミングモデルの重要な要素であり、これを使用すると、さまざまなデータソースからのデータを明示的にキャッシュできます。プレゼンテーション層では、GUI コントロールと密接に統合された DataSet により、データバインドが実行されます。中間層では、リレーショナル形式のデータを保持するキャッシュが提供され、単純で高速なクエリと階層的なナビゲーションサービスが含まれます。データベースに対する要求数を削減するための基本的な手法は、DataSet を使用し、データを中間層でキャッシュすることです。たとえば、データドリブンの ASP.NET Web アプリケーションでは、ほとんど変更されないアプリケーションデータがかなりの割合で存在し、しかも、複数のセッションまたは複数のユーザー間で共通して使用されているケースがよくあります。このデータを Web サーバー上のメモリに維持しておくことで、データベースに対する要求数を減らし、高速な対話処理をユーザーに提供できます。 DataSet が備えるもう 1 つの特長は、アプリケーションが、1 つまたは複数のデータソースから取得したデータのサブセットをアプリケーション空間に取り込むことができる点です。アプリケーションは、そのデータをリレーショナル形式を維持したままインメモリで操作できます。

こうした突出した特長がある反面、DataSet のクエリ機能には制限があります。 Select メソッドでデータのフィルター処理や並べ替えを行ったり、GetChildRows メソッドや GetParentRow メソッドを使って階層のナビゲーションを行うことはできます。しかし、さらに複雑な処理を行うには、開発者が独自にクエリを作成する必要があります。その結果、アプリケーションで期待したパフォーマンスが得られなかったり、メンテナンスが難しくなったりする可能性があります。

LINQ to DataSet は、DataSet オブジェクトにキャッシュされたデータに対するクエリをより簡単に、より高速にします。これらのクエリはアプリケーションコードに文字列リテラルとして記述するのではなく、プログラミング言語そのもので表現できます。つまり、開発者はクエリ言語を個別に習得する必要はありません。 LINQ to DataSet の利点はそれだけではありません。Visual Studio IDE で LINQ に対するコンパイル時の構文チェック、静的な型指定、IntelliSense などの機能を利用できるため、Visual Studio 開発者の生産性も向上します。また、LINQ to DataSet を使用すると、1 つまたは複数のデータソースから取得して統合したデータを照会することもできます。これにより、データの表現方法や扱いに柔軟性が要求されるさまざまなシナリオが実現します。特に、汎用のレポート作成、分析、ビジネスインテリジェンスを行うアプリケーションでは、この手法を用いたデータ操作が欠かせません。

LINQ to DataSet を使った DataSet のクエリ

LINQ to DataSet を使用して DataSet オブジェクトを照会するには、あらかじめ DataSet にデータを読み込んでおく必要があります。DataSet へのデータの読み込みは、DataAdapter クラスまたは LINQ to SQL を使用するなど、複数の方法で行うことができます。 DataSet オブジェクトへのデータの読み込みが完了すると、そのデータセットに対してクエリを実行できるようになります。 LINQ to DataSet を使ったクエリの作成方法は、他の LINQ 対応データソースに対して統合言語クエリ (LINQ) を使用する方法と似ています。 LINQ のクエリは、DataSet の単一のテーブルに対して実行するか、または Join や GroupJoin などの標準クエリ演算子を使って複数のテーブルに対して実行することができます。

LINQ のクエリは、DataSet の型指定されたオブジェクトと、型指定されていないオブジェクトの両方をサポートしています。アプリケーションのデザイン時に DataSet のスキーマがわかっている場合は、型指定された DataSet を使用することをお勧めします。型指定された DataSet のテーブルおよび行は、列ごとに型指定されたメンバーを持ちます。これにより、クエリが簡素化され、読み取りやすくなります。

LINQ to DataSet には、System.Core.dll に実装された標準クエリ演算子に加え、一連の DataRow オブジェクトに対して容易にクエリを実行することのできる複数の DataSet 固有の拡張機能が追加されています。これらの DataSet 固有の拡張機能には、DataRow の列値にアクセスするためのメソッドのほか、一連の行を比較するための演算子があります。

n 層アプリケーションと LINQ to DataSet

n 層データアプリケーションは、複数の論理レイヤー (層) に分けられた、データ処理を中心とするアプリケーションです。一般に、n 層アプリケーションには、プレゼンテーション層、中間層、およびデータ層が含まれます。アプリケーションコンポーネントを別個の層に分けることで、アプリケーションの保守性とスケーラビリティが向上します。 n 層データアプリケーションの詳細については、「n 層アプリケーションでのデータセットの操作」を参照してください。

n 層アプリケーションでは、Web アプリケーションの情報をキャッシュするために DataSet が中間層で使用されます。拡張メソッドを通じて実装される LINQ to DataSet のクエリ機能により、既存の ADO.NET 2.0 の DataSet が強化されています。

次の図は、LINQ to DataSet と DataSet の関係、および n 層アプリケーションでの位置付けを表しています。

中間層とデータセットの間の LINQ to DataSet。