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Windows 秘話: プロジェクトが絶望的な状態にある兆候

直属の上司がプロジェクトについて正確に説明することさえできないときは、プロジェクトが絶望的な状態にある証拠です。

Raymond Chen

数年前、ある製品のプロジェクトが、ちょうど始まろうとしていたときのことです。その製品の開発チームを率いるシニア マネージャーが部署全体にメッセージを送信し、異常な興奮状態に陥った人々を乗せた列車が走り出しました。彼は、いくつもの詳細なシナリオを挙げて、長い間、この製品なしで生活してこられたのが不思議に思えるくらい、この新製品によって自分たちの生活がとてもすばらしいものになることを説明していました。

私は、メッセージに記載されていたシナリオとソリューションに違和感を覚えました。というのも、そのシナリオとソリューションは、問題視する状況ではなかったからです。そのため、彼が提案した "ソリューション" は不要であるように思えました。

たとえば、このテクノロジは、友達とレストランに夕食に出かけたときに、効果を発揮し、レストランに行くだけで、レストランでのやり取りが管理されるそうです。このテクノロジは、食事に出かけたメンバー全員の食べたい物から、特製のスペシャル メニューを作れるほど優秀だそうです。

私は自分と友達のために料理を選ぶくれるコンピューターなど必要でもほしくもありませんでした。友達とメニューを一緒に見て、注文するメニューを話し合うことは、グループで食事をする楽しみの 1 つです。

このテクノロジは、友達とレストランで食事をするという高度に社会的な営みを電子的なトランザクションに変換します (電子は電子同士の交流を楽しんでいるかもしれませんが)。また、このテクノロジを使用すると、人生の醍醐味である行き当たりばったりさがなくなります。たとえば、ラジオで「レモングラスの香り」という曲を聴いたり、夕食のとき隣のテーブルの人の注文を聞いたりして、今まで食べたことのないレモングラス チキンを試しに食べてみる可能性があります。

ですが、このテクノロジによって、"親切にも" メニューからレモングラスは取り除かれ、テクノロジが "把握している" 私の好きな料理が提示されることになります。レストランが利益率の高い料理を注文するように誘導しているとか、テクノロジによって "特別価格" のメニューが生成されているのではないかという懸念がいつも付きまとうことになるでしょう。

もう 1 つのシナリオは、友達の家を訪れたときです。たとえば、友達の家に立ち寄って、編み物をするか、友達のトースターを分解して再度組み立ててそのしくみを確認したりして、しばらく過ごそうと考えていたとしましょう。部屋に入るとすぐに、来客者の趣味に合わせて自動的に音楽が変わり、来客者の滞在中は、来客者の好きな音楽が流れます。そのテクノロジによって、再生リストからは電子音楽がすべて削除されます。このような管理された世界では、ペット・ショップ・ボーイズの曲が意外と悪くないことには決して気付かないでしょう。

革命には抵抗勢力が付き物です。私もその 1 人だったのだと思います。その後、このプロジェクトは中止になりました。皆が、いつもと同じように、仕事に取り組みました。多くの人は、最初のメッセージで説明されていた状況下にあっても、かまわないでしょう。かまわなければ、何十年もの間、繰り返してきたのと同じ方法で対応するまでです。つまり、レストランでメニューを選ぶときに皆で相談したり、友達の家を訪ねたときに趣味に合わない音楽を聴かされるリスクを冒すでしょう。

どういうわけか、長い年月が過ぎた今、今月のコラムでは、昔のプロジェクトで約束されていた奇妙なディストピアの世界についてお伝えすることにしました。この話をしていたときに、そのプロジェクトに従事していた人が、たまたま居合わせており、私がプロジェクトに対して抱いている印象に憤慨し、「我々がやろうとしていたのは、決してそのようなことではない」と言いました。

そのテクノロジは、レストランでやり取りする機会を奪ったり、ユーザーが聴く音楽を検閲することを意図したものではありませんでした。これらのシナリオは、完全な作り話でした。皆が存在しないものについて錯乱状態に陥っていました。未だ憤慨している同僚は、「なぜ我々がそのようなことをやっていたと皆が思っていたのかわからない」と続けました。

これに対して、私は「君たちの直属の上司が、そのようなことをやっていると皆に伝えていたからだよ」と答えました。

直属の上司が皆にプロジェクトを正確に説明することさえできないときは、プロジェクトが絶望的な状態にある証拠です。

Raymond Chen

Raymond Chen は自分の Web サイト「The Old New Thing」および同じタイトルの書籍 (Addison-Wesley、2007 年) で、Windows の歴史と Win32 プログラミングについて扱っています。「The Old New Thing」は、病気の診断、治療、治癒、または予防を目的としたものではありません。

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