はしがき

2001 年 6 月、米国アトランタの Tech・ED では、Visual Basic の 10 周年を記念して、盛大なイベントがおこなわれました。この 10 年の間に、Windows 環境における主要な開発環境として不動の位置を築くまでに成長した Visual Basic を祝うものです。

もともと、Windows 3.x において簡単に GUI を作成することが主な役割であった Visual Basic 1.0 は、バージョンを上げるごとに機能強化され、今や Visual Basic 6.0 は、データベースアプリケーションやビジネス層のコンポーネント、COM アプリケーション、Web アプリケーションなど、さまざまな用途で利用されるに至っています。そしてまた、Visual Basic はさらなる新しい進化を始めようとしています。

今から 1 年前のこと、マイクロソフトはインターネットに基づくシステム基盤として .NET 構想を提唱し、その一環としてアプリケーションの実行環境・開発環境となる 「.NET Framework(Beta 1)」 を発表しました。その .NET Framework 向けアプリケーション開発に対応した新しい Visual Basic が、Visual Basic .NET(VB .NET)です。

Visual Basic .NET は、.NET Framework 向けのプログラミング言語であり、従来から開発生産性が高いといわれている Visual Basic を、オブジェクト指向プログラミング言語としてさらに強化したものです。特に、オブジェクト指向プログラミングの中で重要な機能の 1 つとされる 「クラス継承」 や 「オーバーライド」 なども導入され、C++ や C#、Java などと同様に、本格的なオブジェクト指向プログラミング言語となりました。Visual Basic .NET は、マイクロソフトの .NET Framework において重要なプログラミング言語であり、今後、インターネットにおけるシステム開発を含め、アプリケーション開発において主要な言語の 1 つとなるでしょう。

今後、VB .NET のアプリケーション開発ツールとしては、Visual Studio .NET が計画されています(2001 年 11 月現在、Beta 2)。Visual Studio .NET には、グラフィカルなデザイナや各種ウィザードなど、VB .NET アプリケーション開発を支援するさまざまなツールが備わっており、GUI アプリケーションや分散アプリケーション、また新しい ASP .NET に基づく Web フォームや XML Web サービスなどを短期間で作成することができます。そのようなアプリケーションの構造を理解し、つくりこむためにも、まず VB .NET を理解することが重要です。そこで本書は、VB .NET というプログラミング言語を本格的に学習したいという方のために作成しました。

本書では、できるだけ多くの方が利用できるように、あらかじめ必要となる前提知識は少なくするようにしました。従来の Visual Basic 6.0 を習得していれば、比較的早く Visual Basic .NET を理解できますが、本書を読む上で、Visual Basic 6.0 の知識は特に必要ありません。前提知識としては、以下のような知識が既に修得されていることを想定しています。

  • 情報処理、コンピュータやインターネットなどの一般的な用語
  • Windows 2000 環境での一般的な操作
  • プログラミングの基本用語(コンパイル、変数、配列など)
  • 基本的なアルゴリズムに関する用語(条件判断、ループなど)

特定のプログラミング言語を既に修得されていなくともかまいませんが、ある程度、ほかのプログラミング言語をかじったことかあれば、学習がスムーズに進められるでしょう。

また本書では、より多くの方が、より充実した内容を学べるように以下のような工夫をしています。

  • じっくり本格的に学習できる独習書として
    本書では、Visual Basic .NET の構文や関連知識を、小項目に分けて、1 ステップごとじっくり独習できるような構成にしてあります。各小項目では、1 度にたくさんのことに言及しないようにして、限られた内容に絞り、無理なく理解できるよう努めました。また、本書は比較的初心者の方も対象にしてはいますが、入門的な内容から始まり、Visual Basic .NET プログラミングをする上で必要と思われる VB .NET の大半の構文について言及しています。今後、会社・学校で VB .NET の集合教育をおこなう際の副読本としてもご利用できるかと思います。
  • オブジェクト指向プログラミングとしての Visual Basic .NET
    Visual Basic .NET の大きな特徴の 1 つは、従来の Visual Basic に比べて、オブジェクト指向プログラミング言語としての側面が非常に強化されていることです。本書では、オブジェクト指向としての VB .NET という点についても詳しく説明しています。VB .NET はオブジェクト指向プログラミング言語である以上、オブジェクト指向的なプログラミングをおこなうことで、VB .NET を活用できるというものです。Visual Basic .NET のようなオブジェクト指向プログラミング言語では、「クラス」 という概念が登場します。本書では、特に第 5 章 「クラスの定義と実装」 でクラスについて詳しく説明しており、本書でのそのページ数の割合からしても、重視していることが分かると思います。また、オブジェクト指向という観点に立った実践的なクラス設計のヒントを第 6 章 「オブジェクト指向におけるクラスの活用」 に設けました。
  • Visual Basic 6.0 との比較
    Visual Basic 6.0 を既にマスターしている方に対して、「for VB6」 というコラムがあり、VB6 と VB .NET との違いが説明してあります。これらを利用すれば、さらに効果的に修得できるでしょう(これからプログラミング言語の学習を開始する方は、これら言語比較のコラムを読み飛ばしても特に問題はありません)。

なお現在私は、マイクロソフト株式会社デベロッパー・マーケティング本部の皆様のご指名のもと、MSDN Regional Director として、.NET Framework や Visual Basic .NET や C# の普及に努めております。今回の Visual Basic .NET の執筆が無事完成できたのも、デベロッパー・マーケティング本部の田中 達彦 氏をはじめとする皆様からご支援の賜物であり、この場をかりて感謝の意を表したく思います。

最後になりますが、本書の企画と編集を担当された株式会社リックテレコム 河合 一彦 氏、玉川 美保さんをはじめ、カバーデザインを担当された渡瀬 謙 氏、イラストを担当された岩崎 千恵子さん、そのほかたくさんの方のお力で完成いたしました。

心からお礼申し上げます。ほんとうにどうもありがとうございました。

2001 年 11 月
矢嶋聡