オプティミスティック同時実行制御 (ADO.NET)
更新 : November 2007
マルチユーザー環境には、データベースのデータを更新するための 2 つのモデルがあります。オプティミスティック同時実行制御とペシミスティック同時実行制御です。DataSet オブジェクトは、データをリモート処理するときや、データと対話するときのように長時間にわたる利用状況では、オプティミスティック同時実行制御の使用を奨励するように設計されています。
ペシミスティック同時実行制御では、他のユーザーが現在のユーザーに影響を与えるようなデータ変更を実行するのを防ぐために、データ ソースで行をロックする必要があります。ペシミスティック モデルでは、あるユーザーがロックの適用される操作を実行すると、他のユーザーは、ロックが解除されるまで、競合する操作を実行できません。このモデルは、同時実行の競合が発生するときに、トランザクションをロールバックするよりもデータをロックで保護する方が低コストに抑えられるため、データの競合が多い環境で主に使用されます。
したがって、ペシミスティック同時実行制御モデルでは、行を更新するユーザーがロックを設定します。更新を終了してロックを解除するまでは、他のユーザーはその行を変更できません。そのため、ペシミスティック同時実行制御は、レコードをプログラムで処理する場合のようにロック時間が短いときの実装に適しています。ペシミスティック同時実行制御は、ユーザーがデータと対話していてレコードが比較的長時間ロックされる場合には適していません。
メモ : |
---|
同じ操作で複数の行を更新する必要がある場合は、ペシミスティック同時実行制御でロックするよりも、トランザクションを作成する方が有効です。 |
これに対して、オプティミスティック同時実行制御を使用するユーザーは、行を読み取るときに行をロックしません。ユーザーが行を更新するときは、行の読み取り後に別のユーザーがその行を変更したかどうかをアプリケーションで確認する必要があります。オプティミスティック同時実行制御は、一般に、データの競合が少ない環境で使用されます。オプティミスティック同時実行制御を使用すると、レコードをロックする必要がないためパフォーマンスが向上します。レコードをロックするには、サーバー リソースを追加する必要があります。また、レコードのロックを管理するためにデータベース サーバーに永続的に接続している必要があります。オプティミスティック同時実行制御モデルでは、サーバーとの接続が固定していないため、より短い時間で多数のクライアントを扱うことができます。
オプティミスティック同時実行制御モデルでは、ユーザーがデータベースから値を受け取った後、その値を変更する前に別のユーザーがその値を変更した場合に、違反が発生したと見なされます。サーバーが同時実行制御違反を解決する方法がよくわかる例を次に示します。
オプティミスティック同時実行制御の例を次の表に示します。
午後 1 時に、User1 が、次の値を持つデータベースから行を読み取ります。
CustID LastName FirstName
101 Smith Bob
列名 |
元の値 |
現在の値 |
データベース内の値 |
---|---|---|---|
CustID |
101 |
101 |
101 |
LastName |
Smith |
Smith |
Smith |
FirstName |
Bob |
Bob |
Bob |
午後 1 時 1 分に、User2 が同じ行を読み取ります。
午後 1 時 3 分に、User2 が FirstName を "Bob" から "Robert" に変更し、データベースを更新します。
列名 |
元の値 |
現在の値 |
データベース内の値 |
---|---|---|---|
CustID |
101 |
101 |
101 |
LastName |
Smith |
Smith |
Smith |
FirstName |
Bob |
Robert |
Bob |
更新時のデータベース内の値は User2 が持つ元の値と一致しているため、更新は成功します。
午後 1 時 5 分に、User1 が "Bob" の名を "James" に変更し、行の更新を試みます。
列名 |
元の値 |
現在の値 |
データベース内の値 |
---|---|---|---|
CustID |
101 |
101 |
101 |
LastName |
Smith |
Smith |
Smith |
FirstName |
Bob |
James |
Robert |
この時点で、データベース内の値 ("James") は User1 が期待していた元の値 ("Bob") と一致していないため、User1 による更新はオプティミスティック同時実行制御違反となります。同時実行制御違反は、更新が失敗したことを通知するだけです。ここで、User2 による変更を User1 による変更で上書きするか、または User1 による変更をキャンセルするかの決定が必要になります。
オプティミスティック同時実行制御違反テスト
オプティミスティック同時実行制御違反をテストするには、いくつか方法があります。1 つは、テーブルにタイムスタンプ列を含める方法です。一般に、データベースには、レコードを最後に更新した日付と時刻を識別するために使用するタイムスタンプ機能が用意されています。この機能を使用すると、timestamp 列がテーブル定義に組み込まれます。レコードが更新されると、タイムスタンプが更新されて現在の日付と時刻が反映されます。オプティミスティック同時実行制御違反テストでは、テーブル内容についてのクエリによって timestamp 列が返されます。更新しようとすると、データベースのタイムスタンプ値と、変更行に格納されている元のタイムスタンプ値が比較されます。一致した場合、更新が実行され、timestamp 列が現在の時刻に更新されてその更新が反映されます。一致しなかった場合は、オプティミスティック同時実行制御違反が発生します。
オプティミスティック同時実行制御違反をテストするためのもう 1 つの方法は、行のすべての列の元の値が、データベース内の値とまだ一致しているかどうかを検証することです。たとえば、次のクエリを見てみましょう。
SELECT Col1, Col2, Col3 FROM Table1
Table1 内の行の更新時にオプティミスティック同時実行制御違反についてテストするために、次の UPDATE ステートメントを実行します。
UPDATE Table1 Set Col1 = @NewCol1Value,
Set Col2 = @NewCol2Value,
Set Col3 = @NewCol3Value
WHERE Col1 = @OldCol1Value AND
Col2 = @OldCol2Value AND
Col3 = @OldCol3Value
元の値がデータベース内の値と一致する間は、更新が実行されます。値が変更された場合は、WHERE 句の条件と一致する行を見つけることができないため更新できません。
クエリで、常に一意の主キー値を返すことをお勧めします。一意の主キーを返さないと、UPDATE ステートメントによって複数の行が更新されることがあり、意図に反した結果となります。
データ ソースの列で null が使用できる場合は、ローカル テーブルおよびデータ ソースで一致する null 参照がないかどうかをチェックするように WHERE 句を拡張する必要があります。たとえば、次の UPDATE ステートメントは、ローカル行の null 参照がデータ ソースの null 参照とまだ一致しているかどうか、つまり、ローカル行の値がデータ ソースの値とまだ一致しているかどうかをチェックします。
UPDATE Table1 Set Col1 = @NewVal1
WHERE (@OldVal1 IS NULL AND Col1 IS NULL) OR Col1 = @OldVal1
オプティミスティック同時実行制御モデルを使用するときは、より制限の少ない抽出条件を適用するように選択することもできます。たとえば、WHERE 句で主キー列だけを使用すると、前回のクエリ実行後に主キー以外の列が更新されたかどうかに関係なく、データが上書きされます。WHERE 句を特定の列だけに適用することもできます。特定の列だけに WHERE 句を適用した場合は、特定のフィールドが前回のクエリ実行後に更新されていない限りデータが上書きされます。
DataAdapter.RowUpdated イベント
これまでに説明した方法と併せて、DataAdapter オブジェクトの RowUpdated イベントを使用しても、オプティミスティック同時実行制御違反をアプリケーションに通知できます。RowUpdated は、DataSet から Modified 行の更新を行ったときに発生します。これにより、例外発生時の処理、カスタム エラー情報の追加、再試行ロジックの追加などの特別の処理コードを追加できます。RowUpdatedEventArgs オブジェクトは、テーブルの行を変更する特定の更新コマンドの影響を受けた行数を含む RecordsAffected プロパティを返します。オプティミスティック同時実行制御をテストするように更新コマンドを設定した場合は、オプティミスティック同時実行制御違反の発生時に、RecordsAffected プロパティは値 0 を結果として返します。値が 0 なのはレコードが更新されないためです。この場合、例外がスローされます。RowUpdated イベントを使用すると、発生したイベントを処理したり、UpdateStatus.SkipCurrentRow のような適切な RowUpdatedEventArgs.Status 値を設定することで例外を回避したりできます。RowUpdated イベントの詳細については、「DataAdapter のイベント処理 (ADO.NET)」を参照してください。
必要に応じて、Update を呼び出す前に DataAdapter.ContinueUpdateOnError を true に設定し、Update 完了時に特定の行の RowError プロパティに格納されたエラー情報に対処することができます。詳細については、「行エラー情報」を参照してください。
オプティミスティック同時実行制御の例
DataAdapter の UpdateCommand をオプティミスティック同時実行制御をテストするように設定してから、RowUpdated イベントを使用してオプティミスティック同時実行制御違反がないかどうかをテストする簡単な例を次に示します。オプティミスティック同時実行制御違反が検出されると、アプリケーションは、オプティミスティック同時実行制御違反が反映されるように更新が実行された行の RowError を設定します。
UPDATE コマンドの WHERE 句に渡されたパラメータ値は、それぞれの列の Original 値に割り当てられることに注意してください。
' Assumes connection is a valid SqlConnection.
Dim adapter As SqlDataAdapter = New SqlDataAdapter( _
"SELECT CustomerID, CompanyName FROM Customers ORDER BY CustomerID", _
connection)
' The Update command checks for optimistic concurrency violations
' in the WHERE clause.
adapter.UpdateCommand = New SqlCommand("UPDATE Customers " &
"(CustomerID, CompanyName) VALUES(@CustomerID, @CompanyName) " & _
"WHERE CustomerID = @oldCustomerID AND CompanyName = " &
"@oldCompanyName", connection)
adapter.UpdateCommand.Parameters.Add( _
"@CustomerID", SqlDbType.NChar, 5, "CustomerID")
adapter.UpdateCommand.Parameters.Add( _
"@CompanyName", SqlDbType.NVarChar, 30, "CompanyName")
' Pass the original values to the WHERE clause parameters.
Dim parameter As SqlParameter = dataSet.UpdateCommand.Parameters.Add( _
"@oldCustomerID", SqlDbType.NChar, 5, "CustomerID")
parameter.SourceVersion = DataRowVersion.Original
parameter = adapter.UpdateCommand.Parameters.Add( _
"@oldCompanyName", SqlDbType.NVarChar, 30, "CompanyName")
parameter.SourceVersion = DataRowVersion.Original
' Add the RowUpdated event handler.
AddHandler adapter.RowUpdated, New SqlRowUpdatedEventHandler( _
AddressOf OnRowUpdated)
Dim dataSet As DataSet = New DataSet()
adapter.Fill(dataSet, "Customers")
' Modify the DataSet contents.
adapter.Update(dataSet, "Customers")
Dim dataRow As DataRow
For Each dataRow In dataSet.Tables("Customers").Rows
If dataRow.HasErrors Then
Console.WriteLine(dataRow (0) & vbCrLf & dataRow.RowError)
End If
Next
Private Shared Sub OnRowUpdated( _
sender As object, args As SqlRowUpdatedEventArgs)
If args.RecordsAffected = 0
args.Row.RowError = "Optimistic Concurrency Violation!"
args.Status = UpdateStatus.SkipCurrentRow
End If
End Sub
// Assumes connection is a valid SqlConnection.
SqlDataAdapter adapter = new SqlDataAdapter(
"SELECT CustomerID, CompanyName FROM Customers ORDER BY CustomerID",
connection);
// The Update command checks for optimistic concurrency violations
// in the WHERE clause.
adapter.UpdateCommand = new SqlCommand("UPDATE Customers " +
(CustomerID, CompanyName) VALUES(@CustomerID, @CompanyName) " +
"WHERE CustomerID = @oldCustomerID AND CompanyName = " +
@oldCompanyName", connection);
adapter.UpdateCommand.Parameters.Add(
"@CustomerID", SqlDbType.NChar, 5, "CustomerID");
adapter.UpdateCommand.Parameters.Add(
"@CompanyName", SqlDbType.NVarChar, 30, "CompanyName");
// Pass the original values to the WHERE clause parameters.
SqlParameter parameter = adapter.UpdateCommand.Parameters.Add(
"@oldCustomerID", SqlDbType.NChar, 5, "CustomerID");
parameter.SourceVersion = DataRowVersion.Original;
parameter = adapter.UpdateCommand.Parameters.Add(
"@oldCompanyName", SqlDbType.NVarChar, 30, "CompanyName");
parameter.SourceVersion = DataRowVersion.Original;
// Add the RowUpdated event handler.
adapter.RowUpdated += new SqlRowUpdatedEventHandler(OnRowUpdated);
DataSet dataSet = new DataSet();
adapter.Fill(dataSet, "Customers");
// Modify the DataSet contents.
adapter.Update(dataSet, "Customers");
foreach (DataRow dataRow in dataSet.Tables["Customers"].Rows)
{
if (dataRow.HasErrors)
Console.WriteLine(dataRow [0] + "\n" + dataRow.RowError);
}
protected static void OnRowUpdated(object sender, SqlRowUpdatedEventArgs args)
{
if (args.RecordsAffected == 0)
{
args.Row.RowError = "Optimistic Concurrency Violation Encountered";
args.Status = UpdateStatus.SkipCurrentRow;
}
}
参照
概念
DataAdapter によるデータ ソースの更新 (ADO.NET)