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SharePoint Portal Server 2003 活用ガイド

第 1 章 ‐ SharePoint Portal Server 2003 がもたらす新世代企業ポータルとは

 

SharePoint Portal Server 2003 活用ガイド



この文書は、Microsoft Office SharePoint Portal Server 2003 活用ガイド ‐ 基礎からわかる「企業ポータル」の構築と運用 の一部を抜粋して掲載しています。本書の詳細についてはこちらを参照してください。

本章では、企業ポータルの成り立ちとマイクロソフトにおける企業ポータルの取り組みについて解説します。企業ポータルはインターネット技術の発展と、企業における分散システムの統合と情報の分類・整理という課題の解決に対応する形で浸透しつつあります。本章を読むことで、企業ポータルの歴史から最新の動向までと、早い段階から企業ポータルへの取り組みを行っていたマイクロソフトの動きを理解することができます。

トピック

企業ポータルとは
SharePoint Portal Server と企業ポータル

企業ポータルとは

企業ポータル登場の背景

日本において、企業ポータルが注目されるようになってから5~6 年が経とうとしています。その歴史をさかのぼると、もともとは、インターネット利用の普及に従ってWeb サイトが増えたことにより、それらを分類・整理してまとめたディレクトリ サービスの登場がきっかけであると考えられます。そして、Windows 95 の登場により、インターネット利用はさらに飛躍的に拡大することとなり、それまでの登録型のディレクトリサービスでは、爆発的に増えていく Web サイトに対応できなくなり、ほどなくロボット型検索エンジンが登場することになります。

MSN や Yahoo! はまさにその先駆けとなる Web サイトです。ほとんどの人が、インターネットを利用する際に、それらのWebサイトに最初にアクセスしていたことから、いつしか、インターネットの玄関 (ポータル) という意味で「ポータル サイト」と呼ばれるようになります。

一方、企業における情報システムは、業務の効率化を図るためにさまざまなシステムが導入されていましたが、導入部門や導入時期が異なることで、プラットフォームが統一されていない場合がほとんどでした。また、システム化が進むことにより扱う情報も飛躍的に増えていく傾向にありました。インターネットの普及に従って、それを追いかけるように企業でもその技術を利用したイントラネットの普及が進むことになり、社内にも Web サイトが構築されるようになります。

このような状況の中で、分散したシステムを統合するという課題に対して、イントラネットのベースとなっている HTTP と HTML といった技術による緩やかな統合という現実解と、インターネット上のポータル サイトでの情報を分類・整理してまとめるというアイデアが加わって、企業ポータルという考え方に結実したのだと考えられます。

企業ポータルのしくみ

従来のイントラネット上の Web サイトと企業ポータルは何が違うの? と言われることがあります。確かに、ユーザーがアクセスする先の Web ページだけを見た場合には、特に違いがわかりにくいことから同じようなものと思われてしまうかもしれません。しかしながら、実際には企業ポータルを構成するうえでは、いくつかの不可欠な要素があると考えられます (図 1-1)。

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図 1-1: 企業ポータルに必要な要素

まず、実際にユーザーがアクセスするポータル画面には、さまざまなコンテンツや機能が配置されていますが、これらは一般的には「ポートレット」と呼ばれる HTML ベースのコンポーネントによって構成されます*1。これにより、単純な HTML ページで構成されたものに比べて、あらかじめ用意されているポートレットを組み合わせることで、ポータル画面を柔軟に、そして簡単に構成することができるようになります。

次に、いわゆるリンク集の位置付けになる「サイトマップ」と、あらゆるリソースの中の個々のコンテンツやファイルを網羅的にアクセスする手段としての「統合検索」があります。これらの 3 つの要素はポータル サイトの基本要素であり、階層的な関係にあります。

ポータル画面に表示するコンテンツには大きく分けて、企業ポータルの中で管理するものと、既存のリソースを活用するものの 2 種類があります。企業ポータルの中で管理するものはコンテンツ管理の機能を利用することになり、既存のリソースについては、HTTP をはじめとする標準的なインターフェイスを利用するか、システム連携の機能を通して組み込まれる形になります。このときに、既存のリソースが異なる認証システムの配下で動いている場合があり、そこでシングル サインオンが必要になります。

さまざまなシステムが存在し、さらに情報は氾濫しているような状況ではありますが、ユーザーに本当に必要なものは実は限られています。このことから、それぞれのユーザーに必要なものを的確に提供するために、「パーソナライズ」という考え方が必要になり、そのために必要な情報をユーザー プロファイルに格納することが不可欠になります。企業ポータルをよりよくするためには継続的な改善が必要になると考えられますが、その際に、利用状況分析による利用状況と利用動向の分析機能が使われます。

これらのすべての要素が備わっていないと企業ポータルとは呼べないわけではありませんが、本来の企業ポータルの成り立ちと位置付けを考えた場合、それらは重要な要素であることには変わりありません。

企業ポータルの注目度が高まるにつれて、これらの要素のいくつかを持ち合わせている企業ポータルを構築するための製品を提供するポータル ベンダーが多く登場しました。また、既存の HTML ベースの製品にほんの少し画面を改良しただけで、「企業ポータルに対応しています」というようなものも多く存在しました。しかしながら、現在では、それらは統合されるとともに淘汰されつつあることからも、実際の企業が求めているものと一致していると考えられます。

企業ポータルの動向

初期の企業ポータルは、実際に導入される際の目的や背景、位置付けによって、いくつかのタイプに分類することができました*2。もっとも基本的なものとして、インターネット上のポータル サイトと同様に、分散しているリソースを分類・整理するとともに、統合検索により網羅的な情報へのアクセスを可能にする「インフォメーション型」があります。

これに対して、単純な情報の統合から、より付加価値の高いナレッジの蓄積とそれを活用してさらなる付加価値の創出を支援するものへ発展していく「ナレッジ型」は、ナレッジ マネージメントを実現する手段の 1 つと位置付けられています。

また、すでに HTTP ベースの社内システムやアプリケーションが多く稼動している場合には、それらの機能を統合することを主な目的とした「アプリケーション型」があります。

そして、企業ポータルの発展の最終系として、ユーザーに必要な情報とアプリケーション機能が高度に統合されて、ポータル サイト上でほとんどの業務が遂行できるような「ワーク スペース型」というものが考えられていました。

しかしながら、企業ポータルの導入が進むに従って、その利用方法や利用形態が多様化しつつあります。例えば、特定の部門または業務に特化して、対象となるユーザーに必要な情報とその業務に必要な機能を組み込んだ「特定業務型」や、子会社や関連会社、取引先企業を含む情報の共有を目的とした「エクストラネット型」などがあげられます。

企業を取り巻くビジネス環境は依然として厳しい状況が続いており、スピーディな意思決定と企業変革が求められています。また、業務自体についても関わる部門と人が増えることにより複雑化しており、従来に比べて業務の定型化を図ることが難しくなっていると考えられます。このような状況下では、工場などの生産の現場においてライン方式よりもセル方式が向いている局面があるのと同じように、インフォーマル (非定型) な業務のまま進める方が、変革への対応と、自主的な作業の効率化を行いやすいという側面があります。

さらに、組織の壁を越えて多くの人たちと協調して業務を進める必要があることから、それらを支援するためのコミュニケーションおよびコミュニティ機能を備えた「コラボレーション型」の重要性が高まってきていると考えられます (図 1-2)。

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図 1-2: 企業ポータルの主な分類と発展の方向性

SharePoint Portal Server と企業ポータル

マイクロソフトの取り組み

マイクロソフトは、企業ポータルを実現するにあたって、1999 年に「デジタル ダッシュボード」というコンセプトを提唱しました。これは、企業ポータルの考え方を飛行機や車の計器板になぞらえて、操縦や運転に必要な情報を伝える計器や機器などが使いやすく配置されているように、業務を行うのに必要な情報とその操作に必要なインターフェイスを、ユーザー 1 人ひとりに最適化して配置するというものでした。

このコンセプトを実現するための手段として、最初は Office 2000 のリリースに合わせて、Outlook 2000 の中でメールの未読数や予定表の概要を HTML ページで表示する Outlook Today の機能を利用して、FrontPage 2000 によって作成された簡単なサンプル HTML ページを備えた「デジタル ダッシュボード スターター キット」が提供されました。残念ながら、このスターター キットは企業ポータルを実際に構築するためのものというよりは、デモによる実演ができる程度のものでしかありませんでした。

日本における企業ポータルの取り組みは、1999 年秋の「デジタル ダッシュボード パワーアップ キット」の提供から本格的に始まります。このパワーアップ キットは、スターター キットをベースに、デモの実現だけでなく実際に企業での導入を想定した構成となっており、XML と XSL の技術を利用して、IIS 4.0 と Site Server 3.0 を組み合わせて日本で独自に開発したものでした。

日本では、このように早い段階から取り組んでいたことと、非常に幸運にも早い段階から実際の企業での導入事例が公開されたことにより、デジタル ダッシュボードの認知度は非常に高いものとなり、巷では企業ポータルといえばデジタル ダッシュボードのことと思われていた時期もあります。そして、Windows 2000 のリリースに合わせて、Active Directory 連携の機能を備えた「デジタル ダッシュボード パワーアップ キット 2000」も提供されました。

その後、本格的なアーキテクチャの検討が行われ、ASP と Dynamic HTML をベースにしたデジタル ダッシュボード フレームワークが構築されます。そして、それを利用した最初の実装である「デジタル ダッシュボード リソース キット」の提供が行われました。ここで初めて、ポートレットの考え方である HTML ベースのコンポーネントを実装した「Web パーツ」という用語が登場します。

そして、2001 年には、デジタル ダッシュボード フレームワークをベースにした最初のサーバー製品であるSharePoint Portal Server 2001 がリリースされました。SharePoint Portal Server 2001 では、企業ポータルに必要な基本的な要素である、ポータル機能と統合検索、コンテンツ管理としても利用可能な文書管理機能を備えていました。これ以前に提供されてきたものはすべて無償配布のキットであったため、導入するにあたってはサポートという観点での課題がありましたが、SharePoint Portal Server 2001 の登場により、マイクロソフトの技術を利用した企業ポータルの導入が本格的に進む形となりました。

これは、デジタル ダッシュボードの高い認知度と期待感から、リリース 1 年後の企業ポータル市場における導入企業数が 1 位だったことからも裏付けられています。また、この年は、Office XP のリリースとともに、チーム Web サイトを簡単に構築するための SharePoint Team Services 1.0 も登場しています (図 1-3)。

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図 1-3: マイクロソフトの企業ポータル製品と技術の系譜

SharePoint Portal Server 2003 の登場と位置付け

いよいよ、2003 年 9 月には、SharePoint Portal Server 2001 と SharePoint Team Services 1.0 のそれぞれの後継バージョンである、SharePoint Portal Server 2003 と Windows SharePoint Services 2.0 がリリースされています。

異なるアーキテクチャだった従来のバージョンに比べて、プラットフォーム部分である Windows SharePoint Services 2.0 と、アプリケーション部分の SharePoint Portal Server 2003 が同じアーキテクチャで構成されることで、シームレスな連携が可能になっています。また、Web パーツについては、.NET Framework ベースの新しい Web パーツ インフラストラクチャ上に再構築されており、同じ Web パーツという名称でありながら、従来のものとまったく別のものになっています。

SharePoint Portal Server 2003 では、従来のバージョンでは機能的に不足していた、ユーザー プロファイルおよびパーソナライズの機能をはじめとして、シングル サインオンや EAI (Enterprise Application Integration) 連携の機能が追加されたことにより、企業ポータルに必要な要素を一通り揃えたものになっています。

さらに、Windows SharePoint Services 2.0 のもつコラボレーション機能が統合されたことにより、コラボレーション型の企業ポータルに完全に対応した新世代企業ポータル製品に進化しました。そして、これこそが SharePoint Portal Server 2003 の製品コンセプトである「人と人、人と情報をつなぐ。組織全体の情報活用を最大化するポータル サーバー」というメッセージに表れています (図 1-4)。

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図 1-4: SharePoint Portal Server 2003 のアーキテクチャ

* 1 マイクロソフトでは「ポートレット」を .NET テクノロジーをベースに実装し、「Web パーツ」と呼んでいます。

* 2 ここでの企業ポータルのタイプ分類は、野村総合研究所のレポート「EIP 市場に関する調査」を参考にしています。