クラウドの経済性更新日: 2011 年 5 月 12 日 ダウンロード (XPS、2.77 MB | PDF、2.62 MB (もはや利用できます)) コンピューティングの世界は、クライアント/サーバーからクラウドへの大きな転換期を迎えています。その重要性と影響力はかつてのメインフレームからクライアント/サーバーへの移行にも匹敵します。この新しい時代がどのように発展していくかについてはさまざまな考察が行われており、IT リーダーたちはこの業界が目指す未来について、明確なビジョンを求めています。こうしたビジョンを形作るための最良の方法は、長期的な流れを創り出している根本的な経済性を理解することであると、私たちは考えます。このホワイト ペーパーでは、綿密なモデリングを使用して、クラウドの経済性を評価します。さらに、ここで得られたフレームワークを利用して、長期的な IT の将来についての正確な分析を試みます。 目次
1. はじめに20 世紀初頭に自動車が初めて登場した頃、人々はこれを "horseless carriages" (馬なし馬車) と呼んでいました。この新たな発明品に対して、人々が懐疑的だったのも無理はありません。それまでの何世紀もの間、世の中を支配していたのは馬車というパラダイムだったからです。また、エンジニアたちも当初は、この新たなパラダイムによって、より速く安全な設計が可能になるなどとは理解できなかったため、最初の自動車の外観は、ただ馬がいないことだけを除けば、馬車そっくりでした。信じられないことに、初期のモデルの設計では、鞭を収めるためのホルダーまで装備されていました。エンジニア自身、それがもう不要であることに気づかなかったのです。
当初は、多くの人がこの新たなパラダイムを見誤っていました。銀行家はこう言いました。「馬はすっかり定着している。でも、自動車は突拍子もない発明品に過ぎない。所詮、一時的な話題さ」。自動車のパイオニアたちでさえ、自分たちの発明品が世界中に与え得る影響力を正しく把握してはいませんでした。自動車の発明者の 1 人と言えるダイムラーでさえ、長期的な自動車市場の可能性を予測し、価格が高いこと、運転技術を持つ人が少ないことなどを理由に、100 万台以上の自動車が存在することはないだろうと結論付けていました * 1。 しかし、ダイムラーの予想を裏切り、1920 年代には自動車の台数は 800 万台に達し、現在では 6 億台を越える自動車が存在しています。自動車の価格が下がり、運転の難しさが解消される一方、日常生活における重要性が劇的に増加することで、それまでの制約がなくなり、結果、自動車が大衆に普及するという事実に、初期のパイオニアたちは気づいていませんでした。 今日の IT も、かつての自動車と同様の変革期を迎えています。すなわち、クライアント/サーバーからクラウドへのシフトです。クラウドに期待できるのは、より安価でありながら、より速く、簡単で、柔軟で、効率的な IT です。 初期の自動車業界がそうだったように、この新たなパラダイムが私たちに何をもたらしてくれるかを今の段階で予測することは簡単ではありません。このホワイト ペーパーの目的は、IT リーダーたちがクラウドへの転換を計画するためのフレームワークを構築することです * 2。私たちは長期的な視点からこの分析を行います。今後数十年は通用する正しい判断および投資を評価するには、そうした視点が必要不可欠だからです。結果的に、私たちは、個別のテクノロジや組織的変化などの要因ではなく、クラウドの経済性に焦点を絞ることにしました。多くの場合、経済性を分析することにより、この種の変革を明確に把握できるためです。 セクション 2 では、クラウドのベースとなる経済性の概要を説明し、クライアント/サーバーとの本質的な違いについて検証します。セクション 3 では、こうした経済性が IT の将来にもたらす影響を評価します。クラウドが持つプラスの側面について検証する一方で、今現在、存在している障害についても検証します。最後のセクション 4 では、IT リーダーたちがクラウドへの転換を決断するにあたり、最も考慮すべき問題について検証します。 * 1: 出典: 『Horseless Carriage Thinking (馬なし馬車の思考)』、William Horton Consulting * 2: ここでいうクラウドとは、クラウド コンピューティング アーキテクチャを指し、パブリック クラウドとプライベート クラウドの両方を含みます。 ページのトップへ 2. クラウドの経済性経済性は、業界の変革を形成するうえで重要な原動力となります。クラウドに関する現在の議論は、主に技術的な複雑さや導入における障害が中心となっています。そうした問題が存在し、重要であることは事実ですが、基盤となる経済性こそ、抜本的変換の方向性や速度に対してはるかに大きな影響力を持つことは、歴史的にも明らかです。技術的な課題は、私たちがこれまで体験してきたような急速な技術革新によって解決され、克服されるものです (図 2)。
図 2: クラウドの可能性 メインフレームの時代には、クライアント/サーバーはおもちゃのようなテクノロジと見なされており、メインフレームに取って代わることは不可能と思われていました。しかし、時間の経過と共に、クライアント/サーバー テクノロジは企業へと浸透しました (図 3)。同様に仮想化テクノロジが提唱された時点では、アプリケーションの互換性の問題やベンダーによる囲い込みが導入の障害として引き合いに出されました。しかし、20% ~ 30% のコスト削減 * 3 という経済性によって、CIO たちのこうした懸念が払拭され、急速に普及が進みました。 出典: 「How convention shapes our market (慣例による市場の形成について)」経時的調査、Shana Greenstein、1997 図 3: クライアント/サーバーへの移行の開始時期 クラウド サービスの出現も、IT の経済性を根本からシフトしています。クラウド テクノロジは IT リソースを標準化し、プールすることで、現在手動で行われているメンテナンス作業の多くを自動化します。クラウド アーキテクチャでは、弾力的なリソース使用、セルフ サービス、従量制の課金などが簡単に実現できます。 また、クラウドでは、コアとなる IT インフラストラクチャの管理を大規模データセンターに任せることで、3 つの領域において大幅なスケール メリットが得られます。
* 3: 出典: 「Dataquest Insight : Many Midsize Businesses Looking Toward 100% Server Virtualization (Dataquest による考察: 多くの中規模企業がサーバーの 100% 仮想化を検討)」Gartner、2009 年 5 月 8 日 2.1 供給側のスケール メリットクラウド コンピューティングは、メインフレームとクライアント/サーバー コンピューティングの経済的メリットを組み合わせています。メインフレーム時代のスケール メリットは、メインフレームへの高額な先行投資と、システムを管理する専用人員の確保という必須条件により達成される点が特徴です。必要な計算能力 (単位は MIPS: 1 秒間に 100 万の命令を処理) が増加すると、コストは最初、急速に減少しますが (図 4)、投資に見合うだけのリソースと総需要を確保できるのは、大規模な集中型 IT 組織のみでした。その高いコストのため、エンド ユーザーのアジリティよりもリソースの稼働率が優先されていました。ユーザーのリクエストはキューに置かれ、必要なリソースが利用可能になった時点で処理されていました。 出典: Microsoft 図 4: スケール メリット (解説図) マイクロコンピューターとその後のクライアント/サーバー テクノロジの登場によって、最小購入台数が飛躍的に減り、リソースの運用およびメンテナンスが容易になりました。こうしたモジュール化によって、IT サービスを提供するための最初のハードルがぐっと低くなり、エンド ユーザーのアジリティも急速に改善されました。しかし、トレードオフとして稼働率を犠牲にしなければならず、現在のような状況が発生しました。つまり、必要になるたびに購入されるサーバーによってデータ センターは肥大化するものの、その稼働率は 5% ~ 10% しかないという状況です * 4。 クラウド コンピューティングは、一部で言われるようなメインフレーム時代への回帰ではなく、メインフレームを上回るスケール メリットと効率性に加えて、クライアント/サーバー テクノロジを越えるモジュール性とアジリティを提供し、こうしたトレードオフを解消しています。 そのスケール メリットは、以下のような特性から生まれます。
その他にも、今はまだ予測できないさまざまなスケール メリットが生まれるでしょう。この業界は現在、これまでにない大規模データセンター構築の時代を迎えています (図 5)。こうした巨大な規模を持つ集約的なメガ データセンター (DC) について、効率的な運用に関する多くの研究開発が継続して行われ、将来的にはお客様がより効率的にこれらを利用できるようになると予想されます。DC の運用を最大のビジネス目標とする大規模 DC のプロバイダーは、企業内の小規模な DC の運用者よりも多くの恩恵をこうした状況から受けることになるでしょう。
出典: プレス リリース * 4: 出典: 「The Economics of Virtualization : Moving Toward an Application-Based Cost Model (仮想化の経済性: アプリケーション ベースのコスト モデルへの移行)」、IDC、2009 年 11 月 * 5: アプリケーションに関する作業は含まれません。一部の研究により、低効率のデータセンターの場合、インフラストラクチャを含むシステムの電源および冷却に費やされる 3 年間の支出は 3 年間のサーバー ハードウェアへの支出をしのぐことが示されています。 * 6: PUE は、データセンター全体の消費電力を、実際に稼働するサーバーの消費電力で割ることで求められ、データセンターが効率よく電力を計算能力へと変換できているかを示す指標となります。理論上、最も効率の良い値は 1.0 であり、数値が大きくなるほど、効率は低下します。 * 7: 出典: 全米エネルギー情報局 (2010 年 7 月) およびマイクロソフト。全米の平均電気料金は 1 キロワットあたり 10.15 セントですが、2.2 セントの地域も一部あります。 * 8: 出典: James Hamilton、Microsoft Research、2006 年。 2.2 需要側のスケール メリットIT の総コストは、処理能力のコストだけでなく、その処理能力がどの程度効率的に利用されているかによっても決まります。そのため、実際に利用されるリソース (CPU、ネットワーク、ストレージ) のコストに対して、需要の集約という要因が及ぼす影響についても評価する必要があります * 9。 仮想化されていないデータセンターでは、各アプリケーション/ワークロードは通常、専用に準備された物理サーバー上で実行されます * 10。そのため、サーバー ワークロードの数と比例して、サーバーの数も増加します。このモデルでは、従来サーバーの稼働率が非常に低く、約 5% ~ 10% となっていました * 11。仮想化を使用すれば、最適化されたオペレーティング システム インスタンス内の 1 つの物理サーバー上で、複数のアプリケーションを実行することが可能となります。仮想化の第 1 のメリットは、このように、同じ数のワークロードを実行するために必要なサーバー数が少なくて済むという点です。しかし、このことがスケール メリットにどう影響するのでしょうか。もしも、すべてのワークロードの稼働率が常に一定だとしたら、スケール メリットへの影響はなく、ただユニットが縮小されるに過ぎません。しかし、現実には、ワークロードは時間経過と共に激しく変化し、大量のリソースを必要とした次の瞬間に、まったくと言ってよいほど使用しなくなることがよくあります。こうした背景から、需要側の集約化および分散化により稼働率を改善できる可能性が生まれます。 私たちは、稼働率を変化させるさまざまな要因を解析し、それらの要因を分散させてコストを削減させるクラウドの能力に注目しました。 ここでは、変動性の 5 つの原因を見極め、それを抑制する方法について評価しています。
クラウドの主要な経済的メリットは、こうした要因によって生じるリソース稼働率の変動性に対応できるということです。リソースをプールすることで、変動性は解消され、稼働率のパターンは均一化されます。リソースのプールが大きく、需要の分布が均一で、総稼働率が高く、安価かつ効率的であるほど、その IT 組織はエンド ユーザーの需要を満足させることができます。 そこで、サーバー数を増やした場合、需要のランダムな変動性によってサーバー稼働率が理論上どのような影響を受けるかをモデル化してみました * 12。図 11 からは、1,000 台のサーバーからなる仮想プールが、SLA に違反することなく、約 90% の稼働率で動作できるということが読み取れます。ただし、これは、ランダムな変動性が変動性の唯一の要因であり、ワークロードを物理サーバー間で中断なく、即座に移動できるという条件においてのみ成り立ちます。規模が大きくなるほど、より高レベルな稼働時間 (SLA の契約レベルで定義される) の提供が容易になります。 出典: Microsoft 図 11: ランダムな変動率の分散化 クラウドでは、1日のピーク パターンによる変動性を地域別およびワークロード別に分散化することで緩和できるようになります。平均的な組織内では、ピーク時の IT 使用率は普段の 2 倍になります。複数地域に拠点を置く大規模組織でも、従業員およびユーザーのほとんどは同じタイム ゾーンに住むため、一日のサイクルはほぼ同じになります。大部分の組織は、相互に補完し合うようなワークロードを持っていません。たとえば、業務時間中の電子メール、ネットワーク、トランザクション処理などと置き換えられるほど、深夜に活発な作業が行われることはありません。異なるタイプの組織やワークロードをプールすることで、こうしたピークと谷間を相殺することが可能となります。 業界固有の変動性は、すべての企業において高い相関関係を持ったピークと谷間を生み出します (たとえば、小売り業者のシステムのほとんど (Web サーバー、トランザクション処理システム、支払処理システム、データベースなど) は、休暇シーズンに需要のピークを迎えます) * 13。図 12 に、さまざまな業界の変動率を示します。ピーク時の利用率は通常平均の 15 倍から 10 倍となっています。
図 12: 業界固有の変動性 Windows Live Hotmail や Bing などのマイクロソフトのサービスは、さまざまなサブサービスを積み重ねることで、マルチリソースの分散化を実現し、異なるリソース条件 (CPU の制約、ストレージの制約など) を持つワークロードを最適化しています。ただし、こうしたメリットを数量化することは困難であるため、今回のモデルには、マルチリソースの分散化は含めていません。 不確実な成長パターンの変動性は、ハードウェアの標準化とジャストインタイムの調達によって、完全ではありませんが、ある程度抑制できます。私たちのモデリングによると、1,000 台以下のサーバーを所有する企業において、成長の不確実さにより、パブリック クラウド サービス用のサーバーに対する 30% ~ 40% の過剰投資が生じています。さらに小さな規模の会社の場合 (インターネット関連の新興企業など)、こうした影響力はさらに大きくなります。 ここまでのところ、変動性のレベルはクラウドに移行しても同じ程度に留まると想定してきました。しかし、実際には、変動性は劇的に増加し、その結果、スケール メリットも大きくなる傾向があります。その 2 つの理由を以下に示します。
最大規模のパブリック クラウドでさえも、すべての変動性を分散化することは不可能であり、市場レベルの変動性は残ります。需要をさらに均一化するためには、より洗練された価格体系を採用する必要があります。たとえば、電力市場のように (図 13)、顧客に対して、稼働率のピーク時から稼働率の低い時間帯への需要のシフトを促す価格的メリットを提示することが考えられます。また、需要の価格弾力性により、価格を下げることでさらなる利用増が誘発されます。需要管理によって、クラウドの経済的メリットはさらに高まります。 出典: Ameren Illinois Utilities 図 13: 電力供給における変動価格制 * 9: このペーパーでは、"リソース" の使用率について総合的に述べています。しかし、リソース間で重要な差異があることも確かです。たとえば、ストレージは CPU および I/O リソースよりもピーク時の増加率が小さいため、ストレージがここで述べるような影響に左右される度合いは、比較的低くなります。 * 10: もちろん、複数のアプリケーションを 1 つのサーバー上で実行することは可能ですが、一般的な手法ではありません。オペレーティング システムを変更せずに、アプリケーションだけをサーバー間で移動させることは非常に困難な作業です。そのため、1 つのオペレーティング システム インスタンス上で複数のアプリケーションを実行すると、サービスの維持が困難になるようなボトルネックが生じ、アジリティが低下します。しかし、仮想化を使用すると、アプリケーションおよびオペレーティング システムを自由に移動させることが可能になります。 * 11: 出典: 「The Economics of Virtualization: Moving Toward an Application-Based Cost Model (仮想化の経済性: アプリケーション ベースのコスト モデルへの移行)」、IDC、2009 年 11 月 * 12: ランダムな変動性の分散により生じるスケール メリットを計算するため、私たちは、モンテ カルロ モデルを作成し、ランダムなワークロードを多数提供するさまざまな規模のデータセンターをシミュレートしました。そして、シミュレートした DC それぞれにワークロード (想定される Web 利用パターンに近い値) を追加していき、サーバー リソースの可用性が低下して稼働時間が 99.9% または 99.99% を割った時点で終了しました。こうして測定された最大ワークロード数により、DC のサーバーがパフォーマンスを損なうことなく動作できる最大稼働率が決定されます。 * 13: 多数のお客様のサーバー利用履歴を使い、そうしたパターンについて分析できれば理想的です。しかし、こうしたデータは⼊⼿が難しく、多くの場合、質も良くありません。そのため、代わりに Web トラフィックを使⽤して業界固有の変動性を分析しました。 2.3 マルチテナント方式によるスケール メリット先に述べた供給側のスケール メリットと需要側のスケール メリットは、アプリケーション アーキテクチャからは独立して達成されます。すなわち、従来のスケール アップかスケール アウトか、またはシングル テナントかマルチテナントかという選択は関係ありません。一方、アプリケーションがマルチテナント アプリケーションとして記述されている場合のみ実現できる、重要なスケール メリット要因もあります。マルチテナント アプリケーションの場合、顧客ごとに 1 つのアプリケーション インスタンスを実行する (例: Microsoft Office 365 の専用インスンタスなど、オンプレミスのアプリケーションや大部分のホスト型アプリケーション) のではなく、アプリケーションの 1 つのインスタンスを複数の顧客が使用します (例: 共有された Office 365)。この方式には 2 つの重要な経済的メリットがあります。
出典: Microsoft 図 14: 稼働率中のオーバーヘッド こうしたメリットを活用するように記述することで、アプリケーションを完全にマルチテナント化することも、クラウド プラットフォームが提供する共有サービスを利用することで、部分的にマルチテナント化することも可能です。こうした共有サービスを多く利用するほど、アプリケーションはマルチテナントによるスケール メリットを受けられます。 2.4 全体的な影響サーバー処理能力における供給側のスケール メリット (複数サーバーによるコストの分配)、需要側のワークロードの集約 (変動性の縮小)、そしてマルチテナント アプリケーション モデル (複数の顧客間でのコストの分配) を組み合わせることで、大幅なスケール メリットが生まれます。その影響の大きさを予測するため、私たちはコストの長期挙動を評価するコスト スケーリング モデルを構築しました。 図 15 には、従来型サーバーの 10% を使用するワークロードに対する結果を示します。このモデルでは、10 万台のサーバーからなるデータセンターの総所有コスト (TCO) は、1,000 台のサーバーからなるデータセンターに比較して 80% も低くなることが示されています。 出典: Microsoft 図 15: クラウドのスケール メリット ここで 1 つの疑問が浮かびます。私たちが述べてきたクラウドの経済性は、IT 予算にどのような影響を与えるのかということです。私たちはお客様のデータから、インフラストラクチャのコスト、既存のアプリケーションのサポートおよびメンテナンスのコスト、新しいアプリケーションの開発コストが総支出に占めるおおよその割合を算出しました (図 16)。クラウドは、これら 3 つの領域すべてに影響を与えます。供給側と需要側のコスト減は、主に総支出の約半分を占めるインフラストラクチャの部分に影響します。既存アプリケーションのメンテナンス コストには、更新およびパッチの適用、エンド ユーザーのサポート、ベンダーへのライセンス料の支払いなどが含まれます。これらは総支出の約 3 分の 1 に相当し、マルチテナントによる効率化が有効です。 出典: Microsoft 図 16: IT の支出割合 新規アプリケーションの開発は、IT の技術革新を達成する手段と考えられていますが、総支出の 10 分の 1 程度を占めるに過ぎません * 14。そのため、IT リーダーは通常この支出を増やすことを望みます。ここに示すクラウド コンピューティングの経済的なメリットによって、予算が節約できるため、新規アプリケーションの開発により多くの資金を投じることが可能になります。次のパラグラフおよびセクション 3 では、この点についてさらに深く掘り下げます。 * 14: 新規アプリケーションの開発コストには、アプリケーションの設計および記述のコストのみ含まれ、それらを新たなインフラストラクチャでホストするためのコストは除外されます。こうしたコストを加えると、開発コストの比率は 20% となり、そのようなデータが使用される場合もあります。 2.5 クラウドの経済性の活用これまで述べてきたさまざまな恩恵を得ることは、現在のテクノロジでは簡単ではありません。自動車の黎明期、エンジニアたちがその設計を根底から再考しなければならなかったように、開発者はアプリケーションの設計を見直す必要があります。マルチテナント化と需要側の集約は、開発者が、あるいは最先端の IT 部門でさえ、自力で実装するにはしばしば困難を伴います。そして、正しく実装されない場合、アプリケーションの開発コストが著しく上昇する (その結果、新規アプリケーション開発用の予算を余分に確保できても帳消しになる)、上で述べた予算の節約が部分的にしか達成できないといった結果に終わります。クラウドの経済性を活用するための最良のアプローチは、パッケージ アプリケーションか、新規開発/カスタム アプリケーションかによって異なります。 出典: Microsoft 図 17: クラウドのメリットの享受 パッケージ アプリケーションの場合: パッケージ アプリケーションを仮想化して、クラウド仮想マシン上 (仮想化された Exchange など) に移行することで一定のコスト削減は可能になりますが、こうしたソリューションは理想からはほど遠く、本セクションで紹介するメリットすべてを得ることはできません。原因は 2 つあります。まず、単独サーバー上での実行を前提に設計されたアプリケーションは、スケール アップまたはスケール ダウンが容易でなく、負荷分散、自動フェールオーバー、冗長性、アクティブなリソースの管理などの機能を実装する、大幅な追加プログラミングが必要となります。このため、需要の集約と、サーバー稼働率の向上に限度が生じます。2 つ目の原因として、従来のパッケージ アプリケーションは、マルチテナント用に記述されておらず、クラウドにホストするだけでは変換されないということが挙げられます。パッケージ アプリケーションの場合、クラウドのメリットを活用する最良の方法は、Office 365 などの SaaS 提供サービスを利用することです。このサービスはスケール アウトおよびマルチテナント向けに設計されており、メリットをフルに享受することができます。 新規開発/カスタム アプリケーションの場合: IaaS (サービスとしてのインフラストラクチャ) は、既存アプリケーションを使用していくつかの経済的メリットを得るうえで助けとなります。しかし、そうしたやり方は、ベースとなるプラットフォームおよびツールがクラウド用に設計されていないという点で、"馬なし馬車" に似ています。クラウド コンピューティングの利点をフルに活用するためには、インテリジェントなリソース管理に対する十分な投資が不可欠です。リソース管理者は、リソース (ネットワーキング、ストレージ、CPU) の状態と、実行中のアプリケーションの動作の両方について理解している必要があります。そのため、新規アプリケーションを記述する場合は、PaaS (サービスとしてのプラットフォーム) を使用すると最も効率よく経済的メリットを得ることができます。PaaS では、共有サービス、高度な管理、自動化機能が提供されるため、開発者はアプリケーションのスケーリング設計に時間を取られることなく、ロジックのみに集中できます。 その効果の具体例を挙げると、Animoto という新興企業は、IaaS を使ってスケーリングを行い、100 万人の新規ユーザーの 4 分の 3 以上にサービスを提供しながら、わずか 3 日間で自分たちの処理能力に 3,500 台のサーバーを追加することができました。しかし、後ほど、Animoto チームが自分たちのアプリケーションを検証したところ、彼らが対価を払ったリソースの大部分は、弾力的であるはずのクラウドでも、しばしば (50% 以上) アイドル状態となっていることが判明しました。同社はアプリケーションを設計し直し、最終的にはその運用コストを 20% 低下させました。Animoto のケースは、クラウド導入の成功例と言えますが、インテリジェントなリソース管理に投資するまで、彼らもクラウドのすべてのメリットを得ることはできませんでした。PaaS ならば、そうしたメリットの多くが最初から提供され、追加の調整作業も不要だったと考えられます。 ページのトップへ 3. 関連事項本セクションでは、これまで説明してきたクラウドの経済性に関連する事項を取り上げます。プライベート クラウドによってクラウド導入における障害の一部を克服できることを検証し、パブリック クラウドとプライベート クラウドで、コストにどの程度の差が出るかを算定します。 3.1 可能性と障害セクション 2 で説明したさまざまな経済性は、IT 部門に大きな影響をもたらします。今日、多くの IT リーダーたちは、現在の業務を継続し、既存のサービスとインフラストラクチャを維持するためのコストに予算の 80% が費やされるという問題に直面しています。そのため、技術革新のためのリソースや、絶えず発生する新たなビジネスおよびユーザーのリクエストに応えるためのリソースはほとんど残っていません。クラウド コンピューティングによって、多くのリソースが解放され、それらを技術革新に割り振ることが可能になります。IT のような汎用的なテクノロジに対する需要は、非常に価格弾力的であることが歴史的にも証明されています (図 18)。そのため、以前はコスト的にあきらめざるを得なかった多くの IT プロジェクトも、クラウドの経済性によって実現可能になります。しかし、TCO の低下は、IT 内部における新たなレベルの技術革新を促す要因の 1 つに過ぎません。 出典: Coughlin Associates 図 18: ストレージの価格弾力性
これらの要因は、IT がもたらす付加価値を大幅に拡大します。イールド マネジメント、複雑なイベント処理、ロジスティックの最適化、モンテ カルロ (Monte Carlo) シミュレーションなどのワークロードは膨大な IT リソースを必要としますが、これらを処理するアプリケーションも、クラウドの弾力性により実現可能になります。結果としてエクスペリエンスが大幅に改善され、リアルタイムのビジネス インテリジェント解析や HPC を一般に提供できるようになります。 一方で、クラウド コンピューティングの周辺には依然として重大な懸案事項が存在するということも、多数の調査により示されています。図 19 に示すように、主な懸案事項として、セキュリティ、プライバシー、技術的な成熟度、規制への準拠 (コンプライアンス) があります。また、多くの CIO がレガシ システムとの互換性について懸念しています。実際、多くの場合、既存アプリケーションのクラウドへの移行はそれほど簡単ではありません。 出典: Gartner CIO 調査 図 19: パブリック クラウドの懸案事項
こうした懸案事項の多くは、今日のクラウドによって解決可能ですが、不安は残ります。そのため、IT リーダーたちは、こうした問題を解決しつつクラウドのメリットを実現する手段として、プライベート クラウドの検討を求められています。次は、このプライベート クラウドについてさらに詳しく考察し、想定されるトレードオフについても評価します。 3.2 プライベート クラウドマイクロソフトでは、パブリック クラウドとプライベート クラウドとの違いを、IT リソースが複数の独立した組織間で共有されているか (パブリック クラウド)、単独の組織で占有されているか (プライベート クラウド) によって区別しています。この分類については、図 20 で解説しています。従来の仮想化されたデータセンターに比べて、プライベート クラウドもパブリック クラウドも自動化された管理 (反復作業を軽減するため) と均質化されたハードウェア (コストを下げ、柔軟性を高めるため) から恩恵を得ています。パブリック クラウドはより幅広く共有されるという性質を持ち、プライベート クラウドとパブリック クラウドの最大の違いは、需要をプールする規模と対象範囲にあります。 出典: Microsoft。淡色のチェックはオプションの性質を示します。 図 20: 仮想化、プライベート クラウド、パブリック クラウドの比較
プライベート クラウドは、上で述べたクラウド導入における懸案事項の一部を解消します。専用ハードウェアを使用することで、企業ファイアウォール内部での運用が可能になるため、セキュリティとプライバシーに関する懸案事項が緩和されます。管轄境界を越えるサービスによって生じる規制、コンプライアンス、法的管轄などの懸案事項の一部は、プライベート クラウドをオンプレミスで展開することで、容易に解消できます。これらの懸案事項が IT リーダーの意思決定における大きな障害になっている場合、プライベート クラウドは最良の選択肢となるでしょう。 成熟度やパフォーマンスなど、その他の懸案事項に関しては、プライベート クラウドとパブリック クラウドに大きな違いはありません。パブリック クラウドとプライベート クラウドのテクノロジは互いに連動して進歩しており、今後も共に成熟していくことでしょう。 さまざまなパフォーマンス レベルが、パブリックとプライベートの両形態で利用可能となることが予想され、どちらか一方のみが優位になることはほぼないと思われます * 16。 プライベート クラウドによって、一部の懸案事項が解決されることはわかりました。次のパラグラフでは、先に述べたようなコスト削減がプライベート クラウドでも可能かどうかを検証します。 * 15: 組織単位間の集約化は、2 つの主要テクノロジによって実現されます。1 つは、運用を維持したまま仮想マシンを移動することで、より動的な最適化を可能にするライブ マイグレーション、もう 1 つは、セルフサービスのプロビジョニングと課金です。 * 16: プライベート クラウドでは、パブリック クラウドよりもカスタマイズの自由度が高いため、特定の計算処理タスクに関するパフォーマンスを独自に強化することも可能です。しかし、カスタマイズには研究開発作業とそれに伴う費用が必要であるため、価格とパフォーマンスを直接比較することは困難です。 3.3 コスト面のトレードオフ前のセクションで、パブリック クラウドには、分散化のメリットを実現するための高い能力が備わっているということを概念的にご理解いただけたと思いますが、その程度についてさらに深く検証する必要があります。図 21 に、パブリック クラウドが変動性のすべての要因に対応でき、プライベート クラウドはその一部のみ対応できることが示されています。 出典: Microsoft 図 21: 分散化によるメリット たとえば、業界固有の変動性はプライベート クラウドでは対応できませんが、成長に伴う変動性については、組織がすべての内部リソースをプライベート クラウドにプールしている場合に限り、対応可能となります。こうした要因をすべてモデル化した結果を、図 22 に示します。 出典: Microsoft 図 22: パブリック クラウドのコスト面のメリット 下側の曲線は、パブリック クラウドのコストを示します (図 15 の曲線と同じもの)。上側の曲線は、プライベート クラウドのコストを示します。パブリック クラウドのコストは、需要集約とマルチテナント効果の影響を受け、どの規模においてもプライベート クラウドのコストより低くなっています。グローバル規模のパブリック クラウドは一般に巨大で、最低でもサーバー数にして 10 万台、通常はそれ以上の規模となる傾向がありますが、組織のプライベート クラウドの規模はその需要および IT 予算に応じて決定されます。 図 22 には、サーバーのインストール台数が非常に少ない (100 台以下) 組織の場合、プライベート クラウドが、パブリック クラウドに比べて極端に高価となることが示されています。よって、こうした小規模な組織または部門がクラウド コンピューティングのスケール メリットを得る唯一の方法は、パブリック クラウドへ移行することです。サーバーのインストール台数が 1,000 台を越える大規模な組織の場合、プライベート クラウドは有効ですが、同じサービス規模のパブリック クラウドの方が約 10 倍ほど安価になります。これは、スケール メリット、需要の分散化、マルチテナントの相乗効果によるものです。 TCO の増加に加えて、プライベート クラウドでは展開のための事前投資が必要となります。これは当然、ピーク時の需要要件に対応できるだけの投資でなければなりません。これには独立した予算およびコミットメントが求められ、リスクも増大します。一方、パブリック クラウドは通常、完全な従量課金ベースでのプロビジョニングが可能です。 3.4 現時点での最適なバランスとは: プライベート クラウドのメリットとコストの比較図 23 には、パブリック クラウドとプライベート クラウドを視覚的に比較するための図を示しています。縦軸は、パブリック クラウドのコスト面のメリットを表します。以前の分析から、パブリック クラウド固有の経済的メリットは、顧客の規模にある程度左右されることが明らかになっているため、円の垂直方向の位置は、インストールされているサーバー台数により変化します。一方、横軸は、その組織のプライベート クラウドへの嗜好傾向を表しています。そして、円のサイズは、組織のタイプごとに、インストールされているサーバー台数を反映しています。つまり、右下の象限は、プライベート クラウドに最も適した領域を表していることになります (比較的低コストで、嗜好傾向は高い)。 出典: Microsoft 図 23: プライベート クラウドのコストとメリット もちろん、図 23 はかなり簡略化されたデータを示しています。いずれの業種においても、IT 状況がこのように画一的となることはありません。各組織の IT 運用は、電子メールや ERP などのワークロード タイプ別にセグメント化され、それぞれのセグメントが異なるレベルの機密性と規模を持ちます。CIO 調査では、パブリック クラウド ソリューションに対する嗜好傾向は、ワークロードごとに大きく異なることが判明しています (図 24)。 出典: Microsoft 質問調査 図 24: ワークロードのクラウド移行状況 (2010) もう 1 つの要因は、過去 15 ~ 30 年に多くのアプリケーション ポートフォリオが開発され、それらが密接に関連し合っているという点です。これは特に、大規模なアプリケーション ポートフォリオを所有する大企業の ERP および関連するカスタム アプリケーションについて顕著に見られる傾向です。CRM、コラボレーション、新しいカスタム アプリケーションなどのように "孤立化" したアプリケーションは、クラウドへの展開が比較的容易です。これらのアプリケーションの一部を、現行のオンプレミス アプリケーションに再統合する必要が生じることもあります。 最終的な結論を出す前に、私たちは "馬なし馬車シンドローム" を確実に回避して、2 つの軸 (経済性とプライベート クラウドへの嗜好性) において発生し得るシフトを考慮する必要があります。 3.5 長期的視点: 時間の経過に伴うクラウドへの移行このペーパーの冒頭で指摘したように、明確な未来予想図が存在しない混沌とした初期の時点で、意思決定を行うことはとても危険です。IT リーダーたちは、長期的な視点を持って自分たちのアーキテクチャを設計する必要があります。そのため、私たちとしても、そうした長期的な影響力が図 23 に示す円の位置にどう作用するかについて考える必要があります。 私たちは、2 つの重要なシフトが起こると予測しています。まず、パブリック クラウドの経済的なメリットは、時間の経過と共に拡大します。より多くの作業がパブリック クラウドで行われるようになると、セクション 2 で説明したスケール メリットが機能し始め、プライベート クラウドに対するコスト面での優位性がさらに増大します。消費者は、供給側、需要側、そしてマルチテナントによるコスト削減の恩恵をより多く享受できるようになります。図 25 に示すように、こうした要因は、縦軸での上方向へのシフトをもたらします。 出典: Microsoft 図 25: パブリック クラウドとプライベート クラウドへの嗜好傾向のシフト予想 同時に、クラウドの導入における障壁の一部が崩れ始めます。多くのテクノロジ導入事例では、時間の経過と共に、互換性、セキュリティ、信頼性、プライバシーなどに対する懸念が解消されることが示されています。これはクラウドに対しても起こり得ることであり、図 25 では左方向へのシフトとして表されます。次のパラグラフから、この後者のシフトを促進するいくつかの要因を取り上げ、検証します。 パブリック クラウドは現在、発展の比較的初期段階にあり、信頼性やセキュリティなどの問題点も日々改善されています。パブリック クラウドの電子メールがオンプレミスに実装された電子メールの大部分よりも信頼性が高いことは、すでにデータとして示されています。セキュリティ侵害の原因となる脆弱性のほとんどは、古いシステムの利用により生じます。PaaS では、クラウド システムにより自動的にパッチ適用および更新が処理されるため、すべてのデータおよびアプリケーションのセキュリティが大幅に改善されます。多くのセキュリティ専門家が、パブリック クラウドがセキュリティの点で劣っていると判断すべき理由は存在しないと口を揃えます。それどころか、プロバイダーによってセキュリティに対する厳しい監視と日々進化する高い専門性が提供されるため、パブリック クラウドはオンプレミス以上に安全になると予想されます。 コンプライアンス要件には組織、業界、政府 (EU データ保護条例など) などにより設定されます。現時点では、企業ニーズに合わせて設計された堅牢な開発プラットフォームを持たないクラウドでコンプライアンスを達成することは、非常に困難と考えられています。今後、クラウド テクノロジが改善され、コンプライアンス要件もクラウド アーキテクチャを考慮したものへと修正されていくにつれ、クラウドはコンプライアンスをいっそう高め、組織やワークロードにとって現実的な選択肢となることが予想されます。同様の例として、電子署名も、インターネットの黎明期には、多くの契約やドキュメントで不可とされていました。認証テクノロジや暗号化テクノロジが改善され、コンプライアンス要件が変化した結果、電子署名は広く普及しました。今日では、銀行口座の開設やローン契約をはじめとする多くの契約で、電子署名が使用されています。 中小企業 (SMB) や SaaS ユーザーから成る、パブリック クラウドへの信頼を急速に高めつつある大きな顧客グループが、この分野における変化の強力な原動力となります。これらの支持層は、今後も政府に働きかけ、クラウドへのシフトを容認するような規制の見直しを促していくでしょう。こうして規制が進化することにより、大企業にとってもパブリック クラウドが現実的な選択肢となり、各グループがパブリック クラウド嗜好傾向へと、横軸に沿ってシフトすることが予想されます。 CIO ではなく、部門、ビジネスの意志決定者、開発者、エンド ユーザーなどによって主導されるテクノロジ移行の例は数多く、CIO の意思に反して実施される場合も少なくありません。たとえば、PC とサーバーはいずれも、企業の IT ポリシーで公式に認められる以前にエンド ユーザーや部門によって導入されていました。最近の例としては、携帯電話の導入についても同様の傾向が見られ、やはり一般消費者による導入に後押しされて、IT 部門がこれらのデバイスをサポートしています。クラウドでも同様のパターンが見られます。開発者や部門はすでにクラウド サービスの使用を始めており、IT グループが関知していないという例も少なくありません (そのためローグ (群れを離れた) クラウドと呼ばれることもあります)。IT グループがプライベート クラウドを用意するまで待っていられないというビジネス ユーザーは多く、こうしたユーザーにとっては、生産性と便利さがポリシーに優先することもしばしばです。 "ローグ クラウド" を促進しているのはせっかちさだけではありません。厳しさを増す予算的制限を理由に、ユーザーや部門が、従来の手段では不可能だった、より安価なパブリック クラウド ソリューションの導入に踏み切る場合もあります。たとえば、Derek Gottfrid 氏は、4 TB に及ぶニューヨーク・タイムス紙のアーカイブを処理し、それらをオンラインでホストしたいと考え、同紙の IT 部門に無断でクラウド ソリューションを展開しました * 17。同様に、パブリック クラウドがもたらす今までにない価格体系の透明性を理由に、CEO および CFO も、パブリック クラウドへの移行を CIO に対してより強く訴えるようになるでしょう。 CIO は、こうした行動は抜本的改革の初期には当たり前のことであると認識し、同様の機能を持ったプライベート クラウドの展開および実装を迅速に行うか、適切であれば、こうした行動を想定したポリシーを IT 基準に取り入れる必要があります。 大企業における SaaS 導入の促進は、状況認識が変化していることの証拠となります (図 26)。すなわち、規模が大きく、要求の厳しい企業でさえ、横軸を左方向へ移動 (プライベート嗜好の低下) しているということです。ほんの数年前まで、機密データが含まれた電子メールを積極的にクラウド モデルへシフトしようとする大企業はほとんどありませんでした。しかし、今ではそれが当たり前となりつつあります。 出典: Gartner 図 26: 増加する SAAS (サービスとしてのソフトウェア) の導入 積極的な使用例がクラウド テクノロジへの関心を高め、こうした好循環が加速して、クラウドへの関心および支持を高める原動力となっています。 現時点でも、クラウド導入のハードルは存在しますが、それらも時間と共に解消されると考えられます。予想しなかった新たなハードルが出現する可能性はありますが、クラウド プロバイダーがセクション 2 で紹介したようなスケール メリットを解放することで、パブリック クラウドの経済的メリットは今後さらに高まっていくでしょう。プライベート クラウドへの嗜好は、大部分が既存のワークロードに関するセキュリティやコンプライアンスの懸念から生じていますが、パブリック クラウドの費用効果とアジリティが実現するのは、新たなワークロードです。 "馬なし馬車" のたとえに戻りましょう。自動車が広く普及したのは、それが従来の馬車よりも速くて、優れていた (そして、徐々に価格が安くなった) からというだけではありません。移動手段のエコシスム全体が変化を求められていました。こうした変革を実現するためには、道路網、運転手の訓練プログラム、正確な地図と標識、適切な安全基準、そして燃料インフラの世界的なネットワークが整備される必要がありました。こうした継続的な発展により、自動車の価値が高まったのです。最終的には、自動車によって人々の生活習慣までも変化し、20 世紀中頃には郊外人口が爆発的に増えました。アッパーミドル階級の通勤者が増加し、自動車に対する新たな需要が生まれました。こうした行動様式の変化が象徴する、大規模な正のフィードバック ループこそが、自動車を現代生活になくてはならない存在へと押し上げました。 クラウドもまた、経済性や、テクノロジおよび認識における質的発展だけではなく、IT プロフェッショナル、監査機関、電話通信業者、ISV、システム インテグレーター、クラウド プラットフォーム プロバイダーの一連のシフトによって実現され促進されると、私たちは信じています。そして、クラウドが広く受け入れられるにつれ、その価値はさらに増大するでしょう。 ページのトップへ 4. クラウドへの道のりクラウドへのパラダイム シフトは初期段階にあるため、現在の変革が進む方向について、多くの混乱が生じています。このホワイト ペーパーでは、現在のテクノロジのその先に目を向け、クラウドの基本的な経済性に注目することで今後の方向、すなわち現在の混迷と技術革新が私たちの業界をどこに導くかを検討してきました。これまでの分析に基づき、クラウドへの長期的なシフトを促す、次の 3 つの重要なスケール メリットが確認されます。
結論として、クラウドはこれまでにないレベルの弾力性とアジリティを提供し、その結果、魅力的な新しいソリューションとアプリケーションが実現されます。 あらゆる規模の企業に対して、クラウドは無限の可能性を提示します。IT プロフェッショナルが自分たちの時間と予算の 80% を現行システムの継続運用に注ぎ込まなければならず、技術革新のためのリソースがほとんど残らないという伝統を打ち破る機会が、クラウドによりもたらされます。クラウド サービスを利用すれば、IT グループは、システム運用にかかわる単純作業を、費用効果に優れた信頼できるプロバイダーに任せ、技術革新により集中することが可能となります。クラウド サービスによって、IT リーダーは、以前はコスト面の問題や実装の難しさから不可能と思われていた、新たなソリューションを提供できるようになります。これは特に、クラウドのメリットをフルに活用する新規アプリケーションの短時間かつ簡単な開発を可能にする、クラウド プラットフォーム (PaaS) によって実現されます。 ただし、こうした未来が一夜にして実現するわけではありません。IT リーダーは、自分およびその組織が会社においてまったく新しい役割を演じることになると認識した上で、5 ~ 10 年にわたる将来のビジョンを確立する必要があります。そして、現在の立ち位置と未来とをつなぐ道筋を構想する必要があります。そのための重要な第一歩が、既存のアプリケーションのポートフォリオをセグメント化することです (図 27)。アプリケーションの中には、経済性とアジリティに関するメリットが非常に有効に機能するため、すぐに移行すべきものもあります。しかし、現時点では障害も存在し、セクション 3 で説明したように、そうした障壁は時間とともに克服できるとは言え、クラウドと適合しないアプリケーションもまだあります。クライアント/サーバーに移行されなかったメインフレーム アプリケーションが存在したように、非常に安定した利用パターンを持ち、密に統合されているため、移行する必要のないアプリケーションも存在します。新しいカスタム アプリケーションにはレガシ システムの問題はありませんが、それらをスケーラブルかつ堅牢に設計する作業は、困難を伴うこともあります。クラウドのために最適化されたプラットフォーム (PaaS) はそうした作業を劇的に簡略化してくれます。 出典: Microsoft 図 27: IT プロファイルのセグメント化 こうした推移には、緻密なバランス感覚が求められます。クラウドの準備が整っていない分野において、IT 組織が移行を急ぎ過ぎた場合、ビジネスの継続性、セキュリティ、コンプライアンスに支障が生じる可能性があります。移行が遅すぎた場合、その企業はクラウドの能力をフルに活用するライバル企業に大きく遅れをとり、コスト、アジリティ、価値の面で優位性を失うかもしれません。さらに、移行が遅れると、会社内部のグループや個人がばらばらに独自のクラウド ソリューションの導入に走り (いわゆるローグ IT)、CIO による IT 統制が乱れるという危険も生じます。常にクラウド トレンドの先頭に立つ IT リーダーは、こうした移行を統制し、整備できますが、トレンドに乗り遅れたリーダーはますます主導権を失ってしまうでしょう。 移行を導くため、IT リーダーは長期的な IT アーキテクチャについて考える必要があります。クラウド サービス アーキテクトという新たな役割が登場しています。この役割を持つ担当者は、ビジネス ケースと利用可能なクラウド能力の詳細な理解に基づき、どのアプリケーションおよびサービスをクラウドに移行するか、また移行をいつ行うべきかを判断します。まずは、組織のリソースとグループ ポリシーの一覧を作成する必要があります。アプリケーションとデータを分類し、どのポリシーまたはパフォーマンス要件 (機密データや最重要データの保持要件など) を、どのアプリケーションおよびデータに割り当てるかを決定します。その結果に基づき、IT リーダーは、自分たちの IT 運用のどの部分がパブリック クラウドに適しているか、何がプライベート クラウドへの投資の根拠となるかを決定できます。このような作業から始めることで、経済性とセキュリティ、パフォーマンス、およびリスクの間のバランスを両立させつつ、クラウドの可能性を捉えることができます。 これを実現するため、IT リーダーには、クラウドとその可能性に関する長期的なビジョンを強く支持し、旧式の IT アーキテクチャに固執しないパートナーが必要です。同時に、そのパートナーの条件として、IT の現状にも深く関与し、具体的な課題とクラウドへの移行を適切にサポートする方法を理解していることが求められます。IT リーダーが必要とするパートナーは、必要以上に素早い変革や、IT の現状維持を奨励する人物ではありません。お客様にとっては、レガシ IT とクラウドとを結び付ける最良の方法を求めて努力しているパートナーが必要です。こうした変革の複雑さを軽視して、お客様にその課題を押し付けるようなことがあってはなりません。 マイクロソフトは、"丸ごと本気で" クラウドに取り組んでいます。私たちは、商用の SaaS (Office 365) と、クラウド コンピューティング プラットフォーム (Windows Azure) の両方を提供しています。Office 365 には、Exchange の電子メールや SharePoint のコラボレーションなど、お客様が日頃使い慣れたアプリケーションが用意され、マイクロソフトのクラウドを介して提供されます。Windows Azure は、マイクロソフトのクラウド コンピューティング プラットフォームであり、お客様が独自のアプリケーションや IT 業務を安全かつスケーラブルな方法でクラウド上に構築することを可能にします。スケーラブルで堅牢なクラウド アプリケーションを記述するという難しい作業を確実に行うため、Windows Azure は、Office 365、Bing、Windows Live Hotmail など、クラウド用に最適化されたアプリケーションの構築で培われたマイクロソフトの専門知識を活用できるよう設計されています。仮想マシンをクラウドへ移行するだけではなく、開発者や IT 管理者の複雑さを軽減する PaaS が構築されています。 さらにマイクロソフトでは、世界中の優れたパートナー コミュニティをクラウドの世界に取り込んでいます。マイクロソフトは、世界 200 カ国で 100 万社以上にサービスを提供する 600,000 社以上のパートナーを擁しています。クラウドへの推移においても、数千社のパートナーとのコラボレーションをすでに開始しています。私たちは互いに協力して、安全性、信頼性、拡張性、可用性に優れたクラウドを世界中に構築しています。 過去 30 年にわたり、マイクロソフトは、IT 組織およびそのパートナーやアドバイザーと強力な関係を築いてきました。その結果、現在の IT 組織が直面している課題について、独自の深い理解を得ることができました。マイクロソフトは、クラウドのビジョンの構築に力を注いでいるだけでなく、移行途中にある IT リーダーの支援においても豊富な経験を培ってきました。 マイクロソフトには、未来への強力なビジョンを創造してきた、長い伝統があります。最大規模の企業でなければコンピューターを所有できなかった時代、ビル・ゲイツは、「すべての家庭とすべての机にコンピューターを」というビジョンを掲げて、マイクロソフトを創設しました。その後、マイクロソフトとパートナーは、10 億台を超える PC を家庭とオフィスに届けるための手助けをしてきました。数百万もの開発者や企業が PC に関連した事業を営み、私たちは幸運にもその一翼を担っています。 現在、私たちはクラウド コンピューティングの能力を、すべての家庭、すべてのオフィス、そしてすべてのモバイル デバイスへ行き渡らせるというビジョンを持っています。クラウドの優れた経済性は、このビジョンに向かう私たち全員の推進力となっています。皆様がマイクロソフトやパートナーによるこの取り組みに参加し、共にこのビジョンを実現されることを願います。 |
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