IT 管理の問題: CIO が抱える難題
CIO が直面している課題は、現在の仕事に直接影響を与えるだけでなく、IT プロフェッショナルやビジネス プロフェッショナルとしての今後にも影響を与えます。
Ernest von Simson
CIO の仕事は、難易度が高く、多方面にわたります。たとえば、販売員のように、IT の新機軸を会社の経営陣に提案したり、グローバル プロジェクト マネージャーとして、さまざまなベンダーの製品を信頼性がありコスト効果の高いインフラストラクチャに組み込んだり、預言者として、不用心なベンダーは変化の波に対応できない業界で、一見安定しているベンダーの今後の行く末を見極めたりする必要があります。Compaq、Data General、Digital Equipment、Wang などの企業が辿った運命を考えてみてください。約 10 年ごとに、新規参入する多数の企業家が現役のベンターに対して圧倒的に優位な立場を得ています。CIO は本当にタイミング良く勝者と敗者を見分けることができるのでしょうか。
ガートナー社のエグゼクティブ プログラムを通じて 500 人以上の CIO を対象に実施した世界規模の調査によると、2010 年前半の IT 支出は、2009 年後半に立てた IT 予算計画どおりという結果が得られました。現在の経済情勢で予算を維持することは、CIO の仕事をますます困難なものにする 1 つの要因となっています。CIO はこの微妙なバランスを保つため、日々難題と向き合っています。このような難題を解決している CIO の間では当然とも言える、成功のための重要な要素がいくつかあります。
改革の立て役者
最も成功を収めている CIO は、社内のテクノロジやビジネス モデルに関する徹底的な改革を円滑に行うことができます。これは最良の状態でも困難な仕事です。これまでうまくいっていた企業が、業界全体を巻き込む抜本的な改革に直面している場合は、さらに難しくなります。IBM は、Tom Watson Jr. 氏、Frank Cary 氏、および Lou Gerstner 氏の 3 人の最高幹部の下で、このような変遷を 3 度経験しました。Apple は、創設者 Steve Jobs 氏の下で、同じくらい見事な変遷を 3 度遂げました。それから、Oracle でも、創設者 Larry Ellison 氏の下で同様の変遷が行われました。CIO と IT インフラストラクチャは、このような抜本的改革を促進し、サポートする役割を担う必要があります。
リスク評価
安定した成果を収めている基盤から新境地や新しい競争が激しい市場に思い切って参入する的確な時期を決定するには、ブランコ曲芸師が持つようなタイミングの良さと洞察力が必要になります。これまでのビジネス モデルが安定しているほど、新しいモデルが劣っているように見えるでしょう。多くの場合、"ようすを見る" のが安全な選択肢のように感じられ、いざ改革が始まると、以前収めた成功が重荷となるでしょう。何年も前に、Apple はどのようにして Mac の初期の成功を乗り越えることができたのかを、Steve Jobs 氏にたずねたところ「過去の栄光は捨てました」という簡潔な回答が返ってきました。
最初の参入者の優位性
画期的なテクノロジにより誕生した新しい市場に最初に参入すると、顧客、市場、および利益の面で、1 番おいしいところを取ることができます。ただし、新規参入者は、古いビジネス モデルを基に新しいテクノロジを作成しようとして、悲惨な結果に終わることは珍しくありません。1979 年の PC 市場における主力企業は、Apple、Commodore、および Tandy でした。3 社とも最終的に、マイクロプロセッサを旧式の不適切なモデルに押し込もうとしていました。
- Apple は自社開発のワークステーション モデルをエミュレートしましたが (非常に低価格ではありました)、約 30 年に渡って市場シェアをわずかしか獲得できませんでした。
- Tandy は、OS とアプリケーションが統合された小型コンピューター モデルの発売を実現しましたが、結局、業界から離脱しました。
- Commodore は、家庭向け娯楽機器という誤ったビジネス モデルを採用したため失敗し、その機器を 600 ドルで提供しましたが、わずかな支持しか得られませんでした。
今日の PC 市場の主力企業は、遅参者の Dell と長い歴史のある Hewlett-Packard です。それに対して、Linux 市場の大部分は、新参者の Red Hat と遅参者である Oracle と IBM によって支えられています。
人為的な勢い
企業の組織構造は 1 年間は戦略的かつ強力な武器になりますが、次の年には重荷となります。Tom Watson Jr. 氏は、IBM を徹底した集中型の組織として作り上げ、革命的な System/360 を中心に会社を統合しました。この目的は、メインフレームを開発している競合他社に打ち勝つことでした。ですが、時代は変わり、集中型の組織では、プラグ互換のフレームや、System/360 による市場の独占に便乗しようとする互換性のあるメインフレームや周辺機器を開発する企業に対抗できるほど、迅速に行動を起こすことができなくなりました。
その後、IBM は Frank Cary 氏により、急速かつ決定的に分散型の組織になりました。ただし、想定外の事態が発生しなかったわけではありません。Cary 氏の考案した分散型の事業単位では、必然的に、サーバー ファミリや OS の重複が生じました。これは後に Lou Gerstner 氏により改善されましたが、対応の遅れにより、HP や Sun の参入で市場シェアを大きく失うことになりました。
販売調整
販売チームが、会社に最も影響を及ぼし、有効な財産になることは間違いありません。適切な訓練を受け動機付けがなされている優れた販売員のチームは、あまり期待されていない製品に想定以上の売り上げをもたらすことができます。そのように優秀な販売員は、1990 年代に HP の販売員が行ったように、主力製品の販売を先延ばしにすることで、会社の経営を楽にすることもできます。
ただし、抜本的な改革時には、現地の販売員がマイナス要因になります。多くの場合、成果を上げた現地の販売組織は、柔軟性を欠いています。新しい製品や流通モデルが売上総利益を少しずつ削り取っているにもかかわらず、販売幹部は新しいものを拒むことがあります。市場が大きく変化するときに、販売効率を上げることができなければ、Digital Equipment や IBM のように悲惨な結果に終わるおそれがあります。
ビジネス モデルの変更
急速な変化の時代では、旧世代の資産は、あっという間に負担になります。マイクロプロセッサが誕生する前、電気機械の計算装置の主要企業は、2,000 ドルもの計算装置に関する、多数の顧客向けのトレーニングとサポート サービスを提供していました。マイクロプロセッサが広く使用されるようになり、計算装置の価格が 200 ドルまで下がると、このような企業に価値はなくなりました。顧客は 2 ~ 3 つの機能のために計算装置の購入を正当化することが可能になり、壊れたときには、工場に送ったり、単に破棄することもできました。
それと同じように、Sun は Digital Equipment (当時は Goliath) に対抗する形で市場に参入して、ある程度有利な立場に立ちました。Sun は競争相手のいない「縮小命令セット コンピューティング (RISC) のハードウェア」と「Unix ソフトウェア」という 2 つの技術の波の先端にいました。仕事に飢えていた Sun の販売チームは、Digital が雇用していたエンジニアを圧倒しました。Sun のコスト構造には、Digital の旧世代からの負担を考えると、Digital に負けない確固たるメリットもありました。成功を収めるビジネス モデルは、包括的かつ複雑で、現状に根ざしています。
今後の展望
一部の新参者は古い方針に従い、知らないうちに、長い歴史のある企業に市場を譲っています。旧式のライセンス ビジネス モデルに強く固執しているサービスとしてのソフトウェア (SaaS) ベンダーに光が当たるときが来ることを想定しています。カスタマー サポートに関してお粗末なレベルの理解しか持たない新しいデバイス メーカーが市場に参入したり、長い歴史のある "開かれた" システムのベンダーが、アーキテクチャ上の暗黙の了解に対するサイバー犯罪による新しい脅威を理解できなかったりしても、驚くことではありません。
優良企業と優良な CIO は、この変化する市場とビジネス上の展望を、迅速に見極めることでしょう。皆さんの CIO と IT 組織は、どのようにしてこれに応えるのでしょうか。グローバル IT という相互に関連する世界では、ちょっとした問題にも無関心ではいられません。
Ernest von Simson は、全世界の企業に対して高度なテクノロジの選択と展開に関するコンサルティング サービスを提供している Ostriker von Simson のシニア パートナーを務めています。また、優秀な CIO を輩出する民間企業のシンクタンクである CIO Strategy Exchange の共同理事も務めています。Arcsight、Levanta、および Optarosの取締役会のメンバーでもあります。最近発売された『The Limits of Strategy: Lessons in Leadership from the Computer Industry』(iUniverse、2010 年) の著者で、ペース大学で企業家精神についてのゼミの講師を担当し、、New York Studio School、New York Landmarks Conservancy、および Landmarks West の理事に就任しています。詳細については、LimitsofStrategy.com (英語) を参照してください。