SAP アプリを Azure に移行: 概要およびマイクロソフトと SAP のパートナーシップについて
執筆者: Bryan McCutchan (Principal Program Manager, Azure Global SAP Deployment Engineering)
このポストは、2019 年 4 月 23 日に投稿された Migrating SAP applications to Azure: Introduction and our partnership with SAP の翻訳です。
25 年以上前になりますが、マイクロソフトのビル・ゲイツと SAP 創業者の 1 人であるハッソ・プラットナー氏は、両社のパートナーシップ締結のために会合を開き、それ以来、長きにわたって協力関係を築いてきました。当時の話の中心は、SAP の SAPGUI デスクトップ クライアントの主要オペレーティング システムとして Windows に何ができるのかという点でした。そしてその数年後には Windows NT がリリースされました。すると話題は、SAP R/3 の実行に最適なサーバー オペレーティング システムとして何ができるかということに移りました。その後 1996 年に入ると、マイクロソフトは Windows NT と SQL Server を基盤とした独自の SAP プロジェクトを開始しました。その後もあらゆる規模の SAP のお客様のニーズに応えながら、進化を続ける SAP とのパートナーシップに力を注いできました。
今日では、Fortune 500 企業の 90% が Microsoft Azure を利用し、Fortune 500 企業の約 80% が SAP ソリューションを運用しています。この現状を見ると、マイクロソフトと SAP が今後取り組むべきテーマは、Azure での SAP の運用であることがわかります。2016 年の SAPPHIRE NOW カンファレンス (英語) では、マイクロソフト CEO のサティヤ・ナデラと SAP CEO のビル・マクダーモット氏は壇上で、SAP と Azure における進展について、中でも SAP HANA on Azure Large Instances のリリースを中心に話を展開しました。当時、大規模な SAP 環境を持つお客様との会話は、SAP on Azure に関するベーシックな話題にほぼ終始していました。しかしその後、M シリーズ仮想マシン (~ 4 TB) や SAP HANA Large Instances (~ 20 TB) をリリース (英語) し、SAP Cloud Platform、SAP HANA Enterprise Cloud on Azure、Active Directory シングル サインオン (SSO) のサポート (英語) を提供し、昨年には M シリーズの大サイズ (~ 12 TB) のリリース計画を発表 (英語) すると、内容の薄かったお客様との会話も進化し、SAP on Azure の生産的な活用方法といった深いものへと変わっていきました。
マイクロソフトが 効果的な SAP on Azure 展開をデモで紹介したり、Azure Site Recovery (ASR) や可用性ゾーンなどの機能を備えたミッション クリティカルなクラウド プラットフォームとして Azure を進化させてきたことで、SAP の運用先として Azure を選択するお客様はますます増えてきました。経営陣レベルでも技術者レベルでも、お客様とお話しする際は、SAP on Azure のコスト面でのメリット (設備投資から運用コストへの移行、Azure 予約インスタンスの活用など) だけでなく、スケーラビリティ、柔軟性、セキュリティといったその他の側面についても時間をかけて説明しています。
スケーラビリティの一例として、SAP のお客様は一般的に月末の会計処理のタイミングでコンピューティング容量の使用が多くなりますが、その際に SAP 環境を拡張でき、終了後は速やかに通常運用のサイズに戻すことができます。また、柔軟性や俊敏性の例として、お客様の SAP BASIS 担当チームとの間でよく話題に上る課題は、SAP 環境用の新しいハードウェアを注文、プロビジョニングする際に従っている現行のオンプレミス プロセスです。このオンプレミス プロセスは、お客様の規模などによって異なりますが、数か月から数週間もかかることがあり、その間 SAP アプリケーション担当チームはプロジェクトの途中で待たされることになります。SAP on Azure なら、共有イメージなどの新機能や、Terraform、Ansible、Puppet、Chef といった自動化機能を活用して SAP を迅速にプロビジョニングできるため、より高速で確実なプロビジョニング プロセスを実現できます。
また、SAP のお客様は、SAP S/4HANA 環境の初期デプロイに、構築済みのイメージを Azure サブスクリプションにコピーおよび展開できる SAP Cloud Appliance Library (CAL、英語) を活用しています。たとえば、SAP S/4 プロジェクトの設計フェーズでは、SAP CAL で SAP Model Company をデプロイすることが珍しくなくなりました。この方法なら S/4HANA 実装を展開した後に、それを参考にして独自の S/4 カスタム実装をすぐに開始できるため、アプリケーション担当チームにとって便利です。
開発周りでは、SAP Cloud Platform on Azure (英語) などのソリューションを通じて SAP 開発者にとっての柔軟性を高めてきました。その結果、Azure を利用して SAP ERP データと同じリージョンに開発環境を配置することで生産性を高め、SAP ERP データに低レイテンシでアクセスし、アプリケーションのパフォーマンスを高められるようになりました。これらは、Azure のプラットフォーム サービスによって実現されています。Azure Event Hubs ではイベント データが処理され、Azure Storage では無制限かつ低コストでストレージを利用できます。また、感動的なのは、世界最古の老舗糸メーカーである Coats (英語) のようなお客様も Azure サービスを活用していることです。IoT (モノのインターネット) 機能などを Azure 上の同社の SAP 環境と統合し、工場で活用しています。
セキュリティおよびコンプライアンス面では、マイクロソフトはセキュリティ関連の研究開発に一般企業では難しい年間 10 億ドル超という巨費を投じています。これにより Azure Security Center (英語) などの独自のセキュリティ機能を Azure に持たせ、政府機関や業界の定めるコンプライアンス基準を満たすことで、信頼できるクラウド プロバイダーとしての地位を確立しています。
こうした流れの一環として、今後 3 週にわたり、SAP on Azure テクニカル ブログ シリーズを公開することにしました。これは、今年オーランドで開かれる SAPPHIRE NOW カンファレンスに先駆けての取り組みです。また、SAP 用のクラウド プラットフォームに Azure を採用するお客様の増加により、さらに詳細な技術情報を求める声が増えてきたことも理由の 1 つです。マイクロソフトの Azure グローバル カスタマー アドバイザリー チーム (AzureCAT) に、新たに AzureCAT SAP デプロイメント エンジニアリング チームが創設されたのもそれが理由です。このチームは主に大規模で複雑な SAP 環境を Azure で運用されているお客様を対象としています。こうしたお客様と連携し、SAP 関連のフィードバックをよりダイレクトに Azure のエンジニアリング チームに伝えることで、SAP on Azure のテクニカル ロードマップのさらなる充実を図り、あらゆる規模の SAP のお客様に最善の機能を提供できるようになると考えています。
SAP on Azure テクニカル ブログ記事の 1 本目 (英語) は同僚の Will Bratton が担当しました。内容は、Azure に SAP をデプロイして実行するにあたっての技術設計上の考慮事項 (セキュリティ、パフォーマンス、スケーラビリティ、可用性、回復性、運用、効率性など) についてです。
翌週は同僚の Marshal Whatley が、SAP ERP と SAP S/4HANA の Azure への移行について、マイクロソフト内部の SAP 実装 (英語) が Azure に移行され、さらに S/4HANA へ移行されていることを踏まえて詳しく解説します。その翌週は同じく同僚の Troy Shane が担当し、SAP BW/4HANA の移行と、今日または近い将来の大規模アーキテクチャでの Azure NetApp Files を使用した BW/4HANA の最適なデプロイ方法について取り上げます。
現在 SAP on Azure をご利用のすべてのお客様に、Azure を選んでいただいたことを心から感謝いたします。SAP のミッション クリティカルなクラウド プラットフォームとして、この先も皆様のニーズにお応えしていきたいと思います。また、Azure のご利用を検討されているその他の SAP のお客様は、ご不明な点がございましたら、ぜひ SAPPHIRE NOW カンファレンスなどの機会にお尋ねいただければ幸いです。