Azure のクラスター共有ディスクを使用して Windows フェールオーバー クラスター上の SAP ASCS/SCS インスタンスをクラスター化する

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Windows Server フェールオーバー クラスタリングは、Windows での高可用性の SAP ASCS/SCS インストールと DBMS の基盤です。

フェールオーバー クラスターとは、アプリケーションとサービスの可用性を高めるために連携する、1 + n 台の独立したサーバー (ノード) の 1 つのグループです。 ノード障害が発生した場合、Windows Server フェールオーバー クラスタリングは、アプリケーションとサービスを提供するクラスターを正常な状態で維持するうえで許容できるエラーの数を計算します。 フェールオーバー クラスタリングを実現するために、さまざまなクォーラム モードを選択できます。

前提条件

この記事のタスクを始める前に、次の記事を確認してください。

Azure での Windows Server フェールオーバー クラスタリング

Azure Virtual Machines を使用した Windows Server フェールオーバー クラスタリングには、追加の構成手順が必要です。 クラスターを構築するときは、SAP ASCS/SCS インスタンスに複数の IP アドレスと仮想ホスト名を設定する必要があります。

Azure での名前解決とクラスターの仮想ホスト名

Azure クラウド プラットフォームには、フローティング IP アドレスのような仮想 IP アドレスを構成するオプションは用意されていません。 クラウド内のクラスター リソースに到達するために仮想 IP アドレスを設定する別のソリューションが必要となります。

Azure Load Balancer サービスは、Azure に "内部ロード バランサー" を提供します。 内部ロード バランサーでは、クライアントはクラスターの仮想 IP アドレスを使用してクラスターにアクセスします。

クラスター ノードを含むリソース グループに、内部ロード バランサーをデプロイします。 その後、内部ロード バランサーのプローブ ポートを使って、必要なすべてのポート フォワーディング規則を構成します。 クライアントは仮想ホスト名を使って接続できます。 DNS サーバーがクラスター IP アドレスを解決し、内部ロード バランサーがクラスターのアクティブ ノードへのポート フォワーディングを処理します。

重要

フローティング IP は、負荷分散シナリオの NIC セカンダリ IP 構成ではサポートされていません。 詳細については、Azure Load Balancer の制限事項に関する記事を参照してください。 VM に追加の IP アドレスが必要な場合は、2 つ目の NIC をデプロイします。

図 1: 共有ディスクを使わない Azure の Windows フェールオーバー クラスタリング構成

共有ディスクを使用しない Azure での Windows Server フェールオーバー クラスタリング構成

クラスター共有ディスクを使う SAP ASCS/SCS HA

Windows では、SAP ASCS/SCS インスタンスには、SAP セントラル サービス、SAP メッセージ サーバー、エンキュー サーバー プロセス、および SAP グローバル ホスト ファイルが含まれます。 SAP グローバル ホスト ファイルは、SAP システム全体のセントラル ファイルを格納します。

SAP ASCS/SCS インスタンスには、次のコンポーネントがあります。

  • SAP セントラル サービス:

    • メッセージとエンキュー サーバーの 2 つのプロセス、およびこれら 2 つのプロセスへのアクセスに使われる <ASCS/SCS 仮想ホスト名>。
    • ファイル構造: S:\usr\sap\<SID>\ASCS/SCS<インスタンス番号>
  • SAP グローバル ホスト ファイル:

    • ファイル構造: S:\usr\sap\<SID>\SYS...

    • 次の UNC パスを使ってこれらのグローバルな S:\usr\sap\<SID>\SYS... ファイルにアクセスできるようにする sapmnt ファイル共有。

      \\<ASCS/SCS 仮想ホスト名>\sapmnt\<SID>\SYS...

図 2:プロセス、ファイル構造、および SAP ASCS/SCS インスタンスのグローバル ホスト sapmnt ファイル共有

プロセス、ファイル構造、および SAP ASCS/SCS インスタンスのグローバル ホスト sapmnt ファイル共有

高可用性の設定では、SAP ASCS/SCS インスタンスをクラスター化します。 "クラスター化された共有ディスク" (この例ではドライブ S) を使って、SAP ASCS/SCS ファイルと SAP グローバル ホスト ファイルを配置します。

図 3:共有ディスクを使う SAP ASCS/SCS HA のアーキテクチャ

共有ディスクを使う SAP ASCS/SCS HA のアーキテクチャ

エンキュー サーバー レプリケーション 1 アーキテクチャの場合:

  • 同じ <ASCS/SCS 仮想ホスト名> が、SAP メッセージ プロセスとエンキュー サーバー プロセスへのアクセス、および sapmnt ファイル共有経由での SAP グローバル ホスト ファイルへのアクセスに使われます。
  • 同じクラスター共有ディスク ドライブ S が、これらの間で共有されます。

エンキュー サーバー レプリケーション 2 アーキテクチャの場合:

  • 同じ <ASCS/SCS 仮想ホスト名> が、SAP メッセージ サーバー プロセスへのアクセス、および sapmnt ファイル共有経由での SAP グローバル ホスト ファイルへのアクセスに使われます。
  • 同じクラスター共有ディスク ドライブ S が、これらの間で共有されます。
  • エンキュー サーバー プロセスにアクセスするための別の <ERS 仮想ホスト名> があります。

図 4:共有ディスクを使う SAP ASCS/SCS HA のアーキテクチャ

共有ディスクを使う SAP ASCS/SCS HA のアーキテクチャ

共有ディスクとエンキュー レプリケーション サーバー

  1. 共有ディスクは、エンキュー レプリケーション サーバー (ERS) インスタンスが以下を満たす場合に、エンキュー サーバー レプリケーション 1 アーキテクチャでサポートされます。

    • クラスター化されていない
    • localhost 名を使用する
    • 各クラスター ノードのローカル ディスクにデプロイされている
  2. 共有ディスクは、エンキュー レプリケーション サーバー 2 (ERS2) インスタンスが以下を満たす場合に、エンキュー サーバー レプリケーション 2 アーキテクチャでもサポートされます。

    • クラスター化されている
    • 専用の仮想/ネットワーク ホスト名を使用する
    • (A)SCS IP アドレスに加えて、Azure 内部ロード バランサーで構成するための ERS 仮想ホスト名の IP アドレスを必要とする
    • 各クラスター ノードのローカル ディスクにデプロイされるため、共有ディスクを必要としない

    ヒント

    エンキュー レプリケーション サーバー 1 と 2 (ERS1 と ERS2) の詳細については、次を参照してください。
    Microsoft フェールオーバー クラスターでのエンキュー レプリケーション サーバー
    フェールオーバー クラスター環境での新しいエンキュー レプリケーター

SAP ワークロード用の Azure の共有ディスクのオプション

Azure の Windows フェールオーバー クラスターの共有ディスクには、次の 2 つのオプションがあります。

  • Azure 共有ディスク - Azure マネージド ディスクを複数の VM に同時に接続できるようにする機能。
  • サード パーティ製ソフトウェアの SIOS DataKeeper Cluster Edition を使用して、クラスター共有記憶域をシミュレートするミラー化された記憶域を作成する。

共有ディスクのテクノロジを選ぶときは、次の点に注意してください。

SAP ワークロード用の Azure 共有ディスク

  • 追加のソフトウェアを維持して運用する必要なしに、Azure マネージド ディスクを複数の VM に同時に接続することができます。
  • Premium SSD ディスクを使用した Azure 共有ディスクは、可用性セットおよび可用性ゾーン内の SAP のデプロイに対してサポートされています。
  • Azure Ultra DiskAzure Standard ディスクは、SAP ワークロード用の Azure 共有ディスクとしてはサポートされていません。
  • Premium SSD の範囲に指定されている最小ディスク サイズで Azure Premium ディスクをプロビジョニングして、必要な数の VM に同時に接続できるようにします (通常、SAP ASCS Windows フェールオーバー クラスターの場合は 2 つ)。

SIOS

  • SIOS ソリューションは、2 つのディスク間のリアルタイムの同期データ レプリケーションを実現します
  • SIOS ソリューションでは、2 つのマネージド ディスクを使用します。可用性セットまたは可用性ゾーンのいずれかを使用している場合、マネージド ディスクは異なる記憶域クラスターに配置されます。
  • 可用性ゾーンでのデプロイはサポートされています
  • サードパーティのソフトウェアをインストールして運用する必要があります。ソフトウェアは追加で購入する必要があります

Azure 共有ディスクを使用した共有ディスク

Microsoft では、共有ディスク オプションを使用して SAP ASCS/SCS 高可用性を実装するために使用できる Azure 共有ディスクを提供しています。

前提条件と制限事項

現時点では、SAP ASCS/SCS インスタンスの Azure 共有ディスクとして Azure Premium SSD ディスクを使用できます。 次の制限事項が現在適用されます。

  • Azure Ultra DiskStandard SSD ディスクは、SAP ワークロード用の Azure 共有ディスクとしてはサポートされていません。
  • Premium SSD ディスクを使用した Azure 共有ディスクは、可用性セットおよび可用性ゾーン内の SAP のデプロイに対してサポートされています。
  • Premium SSD ディスクを使用する Azure 共有ディスクには、2 つのストレージ SKU が付属しています。
    • Premium 共有ディスク (skuName - Premium_LRS) 用のローカル冗長ストレージ (LRS) は、Azure 可用性セット内のデプロイでサポートされています。
    • Premium 共有ディスク (skuName - Premium_ZRS) 用のゾーン冗長ストレージ (ZRS) は、Azure 可用性ゾーン内のデプロイでサポートされています。
  • Azure 共有ディスクの値 maxShares によって、その共有ディスクを使用できるクラスター ノードの数が決まります。 通常、SAP ASCS/SCS インスタンスには、Windows フェールオーバー クラスターに 2 つのノードを構成するため、maxShares の値は 2 に設定する必要があります。
  • Azure 近接配置グループは Azure 共有ディスクには必要ありません。 ただし、PPG を使用した SAP デプロイの場合、以下のガイドラインに従ってください。
    • リージョンにデプロイされた SAP システムに対して PPG を使用する場合、ディスクを共有するすべての仮想マシンが同じ PPG に含まれている必要があります。
    • ドキュメント「ゾーン展開を使用した近接配置グループ」で説明されているように、ゾーン間にデプロイされた SAP システムに対して PPG を使用する場合は、ディスクを共有する仮想マシンに Premium_ZRS ストレージをアタッチできます。

Azure 共有ディスクの制限事項の詳細については、Azure 共有ディスクのドキュメントの「制限事項」セクションを注意して参照してください。

Premium 共有ディスクに関する重要な考慮事項

Azure Premium 共有ディスクに関して考慮する必要がある重要な点を次に示します。

  • Premium 共有ディスクのための LRS

    • Premium 共有ディスク用の LRS を使用した SAP のデプロイは、1 つのストレージ クラスター上の 1 つの Azure 共有ディスクで動作します。 SAP ASCS/SCS インスタンスは、Azure 共有ディスクがデプロイされている記憶域クラスターで問題が発生した場合に影響を受けます。
  • Premium 共有ディスクのための ZRS

    • ZRS の書き込み待機時間は、ゾーンをまたぐデータのコピーにより、LRS より長くなります。
    • 異なるリージョンの可用性ゾーン間の距離はさまざまなので、可用性ゾーン間の ZRS ディスクの待機時間もさまざまです。 ディスクのベンチマークを行って、お使いのリージョンでの ZRS ディスクの待機時間を確認してください。
    • Premium 共有ディスクの ZRS によって、リージョン内の 3 つの可用性ゾーンの間でデータが同期的にレプリケートされます。 ストレージ クラスターのいずれかで問題が発生した場合、ストレージのフェールオーバーはアプリケーション レイヤーに対して透過的に行われるため、SAP ASCS/SCS は動作し続けます。
    • 詳細については、マネージド ディスク用の ZRS の「制限事項」セクションを参照してください。

ヒント

SAP デプロイを計画するときの重要な考慮事項については、SAP Netweaver on Azure の計画ガイドおよびSAP ワークロード用の Azure Storage ガイドに関する記事を参照してください。

サポートされている OS のバージョン

Windows Server 2016 と 2019 の両方がサポートされています (最新のデータ センター イメージを使用してください)。

次の理由から、Windows Server 2019 Datacenter の使用を強くお勧めします。

  • Windows 2019 フェールオーバー クラスター サービスは Azure に対応しています
  • Azure ホスト メンテナンスの統合と認識が追加され、Azure のスケジュール イベントを監視することでエクスペリエンスが向上しました。
  • 分散ネットワーク名を使用することができます (これは既定のオプションです)。 そのため、クラスター ネットワーク名に専用の IP アドレスを設定する必要がありません。 また、この IP アドレスを Azure 内部ロード バランサーで構成する必要もありません。

SIOS DataKeeper を使う Azure の共有ディスク

共有ディスクの代わりに、サード パーティ製ソフトウェアの SIOS DataKeeper Cluster Edition を使用して、クラスター共有記憶域をシミュレートするミラー化された記憶域を作成できます。 SIOS ソリューションは、リアルタイムの同期データ レプリケーションを実現します。

クラスターの共有ディスク リソースを作成するには:

  1. Windows クラスター構成内の各仮想マシンに追加ディスクを接続します。
  2. 両方の仮想マシン ノードで、SIOS DataKeeper Cluster Edition を実行します。
  3. ソース仮想マシンの追加ディスク接続ボリュームの内容をターゲット仮想マシンの追加ディスク接続ボリュームにミラー化するように SIOS DataKeeper Cluster Edition を構成します。 SIOS DataKeeper は、ソースとターゲットのローカル ボリュームを抽象化し、1 つの共有ディスクとして Windows フェールオーバー クラスタリングに提示します。

詳細については、SIOS DataKeeper を参照してください。

図 5:SIOS DataKeeper を使用する Azure での Windows Server フェールオーバー クラスタリング構成

SIOS DataKeeper を使用する Azure での Windows フェールオーバー クラスタリング構成

Note

SQL Server のような一部の DBMS 製品では、高可用性のために共有ディスクは必要ありません。 SQL Server Always On は、DBMS のデータとログ ファイルを、クラスター ノードのローカル ディスクから別のクラスター ノードのローカル ディスクにレプリケートします。 その場合、Windows クラスター構成に共有ディスクは不要です。

オプションの構成

次の図は、VM の総数を減らすために Microsoft Windows フェールオーバー クラスターを実行している Azure VM 上の複数の SAP インスタンスを示しています。

これは、SAP ASCS/SCS クラスター上のローカル SAP アプリケーション サーバーとすることも、Microsoft SQL Server Always On ノード上の SAP ASCS/SCS クラスター ロールとすることもできます。

重要

ローカル SAP アプリケーション サーバーを SQL Server Always On ノードにインストールすることはサポートされていません。

SAP ASCS/SCS と Microsoft SQL Server データベースは両方とも単一障害点 (SPOF) です。 これらの SPOF を Windows 環境内で保護するために、WSFC が使用されます。

SAP ASCS/SCS のリソース消費量はかなり小さいものの、SQL Server または SAP アプリケーション サーバーのどちらかのメモリ構成を、2 GB 削減することをお勧めします。

SIOS DataKeeper を使用した WSFC ノード上の SAP アプリケーション サーバー

図 6: SIOS DataKeeper とローカルにインストールされた SAP アプリケーション サーバーを使用した Azure での Windows Server フェールオーバー クラスタリング構成

Note

図に示すように、SAP アプリケーション サーバーはローカルにインストールされているので、同期を設定する必要はありません。

SIOS DataKeeper を使用した SQL Server Always On ノード上の SAP ASCS/SCS

図 7: SIOS DataKeeper を使用した SQL Server Always On ノード上の SAP ASCS/SCS

Windows SOFS を使用した WSFC ノード上の SAP アプリケーション サーバーのオプション構成

NetApp Files SMB を使用した WSFC ノード上の SAP アプリケーション サーバーのオプション構成

Windows SOFS を使用した SQL Server Always On ノード上の SAP ASCS/SCS のオプション構成

NetApp Files SMB を使用した SQL Server Always On ノード上の SAP ASCS/SCS のオプション構成

次のステップ